イズモアリタさん × イラリ代表 川越陽子
川越:
このたび、イラリ誕生を記念して、ワインをギフトとして包めるちょうどいいサイズのマルチクロスの制作をお願いしました。
イラリの誕生は、カタルーニャ地方のアルベ・イ・ノヤ農園を訪問したことがきっかけですが、改めて、アリタさんのモノづくりについてお話を聞かせてもらえますか?
アリタ:
今回はイラリさん誕生記念と、私の久々のテキスタイル復活熱も重なり、お話をいただいたときに運命的なものを感じ、喜んでお受けしました。ありがとうございます。
マルチクロス・制作秘話
アリタ:
私の中で具体的にどこのエリアとか産地を意識したというよりは、ワインを楽しむとか、食卓を囲んで語り合うとか、テーブルを囲むことの様々な事象とか流れみたいなものを描いてみました。
具体的には、まずカタルーニャの岩山やその周辺の自然の恵みをイメージしました。そこには古い街並みや畑、人々の営みが長い歴史の中で積み重なっていて、そこから収穫されたブドウがあり、その収穫に至るまでの月日や星の瞬きが、らせん状に広がっていくイメージです。
最終的に食卓に集まる家族や仲間たちのコミュニケーションの場が広がり、その中で昼でもワインが自然に添えられる、そんなシーンを描いています。このマルチクロスが日常の中で使われることを意識しています。
川越:
昼なのですね?
アリタ:
イラリが提案する「上質なワインのある暮らし」をイメージしたとき、夜というよりはどちらかというと、テーブルを囲むシエスタな時間を思い浮かべました。
午後ランチのついでにちょっとお酒飲んで語る、みたいなね。
川越:
所々に星座のマークが見え隠れしていますが、何か意図的な意味はあるのでしょうか?
アリタ:
イラリの立ち上げ時期と、オファーを受けて描き始めた頃が、ちょうど二十四節気でいう「春分(牡羊座)」、「穀雨(牡牛座)」、「小満(双子座)」、3つの節気と重なっていました。
占星術でいうと、牡羊座はスタートの意味を持つ星座なので、つまり順を追うと、「牡羊座」で何かが始まり、「牡牛座」でそれが豊かに成熟し、「双子座」で楽しい語らいが生まれ循環するという、星々からのメッセージを添えています。(何かが始まり、それが維持されて、また次に広がる)
そういえば、描きおろした図案を最終的に入稿したときも、太陽・金星・木星が次々と牡牛座から双子座へと移動するタイミングでした。
ワインを飲むときでも、何気ない会話のなかに喜びを実感することって多いと思うんです。だから、このマルチクロスは、『豊かさのギフト』をシェアしていくニュアンスも含め、人とのコミュニケーションツールにも使っていただきたいです。
めくるめく心地よいものを描く
アリタ:
今回のデザインの中で、カレイドスコープ(※1)のようなめくるめく感覚も楽しんでいます。
絵の中心に、螺旋のような抽象的な流れのモチーフがありますが、これは、光と光の重なりの中で様々な心象が音楽のように共振していくような感覚ですが、そこにはカレイドスコープ、という言葉がしっくりくるように感じるんです。
また、ここ数年描き続けているモチーフの1つに「羽根」がありますが、今回もさりげなく配置してみました。人間にとって羽根は高いところからみる、開放感の象徴だったりするので、その自由な心地よさを描きました。
カレイドスコープ(kaleidoscope):
英語で「万華鏡」を意味する言葉。ギリシャ語の「カロス(美しい)」、「エイドス(形)」、「スコープ(見る)」に由来。
川越:
あえて作品に「ヒト」をいれないのですね?
アリタ:
今回「ヒト」はあえて入れていません。人を入れると、色が付きすぎてしまうんです。目鼻がついていると、いきなりウォーリーみたいな感じになってしまって(笑)
ユトリロが作品に「ヒト」を描かないことで有名ですが、テーブルを囲んでいる私たちが「ヒト」だからこそ、登場人物は私たち。ここに余計なものを加えたくないんです。
音楽でいうとサウンド的に邪魔をしない、エスノとか、アンビエントミュージックですね。
星、羽根、インテリア&家具、薔薇、瓶...すべて過去に何度も描いてきたものです。昔からこうした景色が好きで何十年も積み重ねてきた画風です。具体的なものを1つチョイスするというよりは、自分の中の大切な記憶がレイヤーのように重なっているような感覚。それらをらせん状に描きたかったのです。
アリタ:
あとですね、最初のインスピレーションは、イラリの立ち上げメンバーの方たちが現地視察された時の旅の記録をたくさん見せていただいたので、そこから描いたエスキースもふんだんに散りばめられていますよ。
川越:
なるほど、私的にはこの天から降りそそぐ光と渦は、サグラダファミリア教会を歩いて上り下りしたときの螺旋階段のように映りました!
楽しみ方は自由!ひっくり返しても楽しめる
川越:
アリタさんだったら、このマルチクロスをどのように使われますか?
アリタ:
これを実用的に使うのもテキスタイルの本望ではあるのですが、私だったら額装して壁掛けにしますかね。裏に布を裏打ちして、パリッとさせてから壁掛けにしたいですね。
そんなことも考えて、長い間みても飽きないよう、天地ひっくり返しても、どの角度から見ても楽しめるよう、絵心をこめて描いています。上下左右があるようでないんですよ。天地を変えても見立てが自由になるような感覚です。
川越:
私は、けっこう日々会食が多いので毎日バッグに忍ばせて、膝掛けやナフキン代わりに使っていますよ。荷物も隠せるんです。探しても、なかなかこの大判サイズがないんですよねー。洋服でも着物でも重宝しています。
川越:
この作品で苦労した点はありますか?
アリタ:
今回は苦労はなかったですね(笑)でも、工夫はありますよ。自由に楽しんでやらせてもらいました!古典と斬新、積み重なる感覚、締切がある中で、クオリティを下げたくない、突き抜けた新境地を描きたいというのがあって、毎回、自問自答するのです。
川越:
何から描き始めて、最後に何を描いたのですか?
アリタ:
全体像の構図を考えるというよりも、椅子や机など小物から描き始めました。
引きで見たときに感じる、暮らしに寄り添うようなひとつひとつの描写と、ダイナミックな渦のぐるぐる感、この2つの要素を重ねました。そこに星が重なった瞬間に、最後の微調整で光の粒がこの世界を創っているようなジューシーな臨場感に仕上げました!
そして最後の仕上げに、先程の3つの「星座」を投下しました。
旅の記録のワクワクが引き出してくれた私の中のインスピレーションすべてです。
丁寧に愉しむ豊かさを
川越:
最後に、有田さんからこの作品を通して、イラリのお客様へ何かメッセージはありますか?
アリタ:
そうですね、日常を『丁寧に愉しむ』ということの重要性ですかね。私たちが生きていること、そのものがギフトなので。
テーブルにワインがあって、会いたい人に会い、美味しいものを食べ、語り合う。一見ただ普通のことなのだけど、いろんな時間の重なりの中で生まれた必然性を丁寧に愉しんでほしいです。
自然に沸き起こる感謝というか、その喜びを『丁寧に愉しむ』ことこそ日々の豊かさに繋がる、と思うのです。
川越:
こんなメッセージを添えて、ワインをプレゼントされたら、最高に嬉しいです!
アリタ:
最後に、私の絵心とイラリさんが描きたいものが一致したことで、私自身ものびのびと表現させていただきました。
暮らしのセンスって、こういうところから磨かれていくのですね。皆さんひとりひとりがこのクロスをきっかけに、創造性を膨らませながら日々の生活シーンを自由に楽しんでいただけたら嬉しいです。