おしゃれで幸せのチェンマイ、ブレック・ファースト・カフェ。Byヒコ・ウォーケン
朝食。朝の目覚めから一日のスタートになる朝食。本当の大切さに気ずいたのは10年くらい前になろうか。それまでは多忙の余り、ただのエネルギー・チャージであった。美味しさを味わうよりも短い時間で食べるだけの習慣に過ぎない。
自宅での朝食は厚切りのバタートースト、友人が沖永良部島で丹念に作るジャガイモ、茹で玉子、野菜、ヨーグルトにインドネシア産の深煎りドリップ・コーヒー。これは休日も変わらない判で押したようなメニューであった。

New Yorkに行くとお気に入りのイースト・ヴィレッジのダイナーでトースト、オムレツ、野菜サラダ、ハーフ・カット・メロンに何杯も注ぎにくるアメリカン・コーヒー。パリではレアールやサンジェルマン・デプレのオープン・カフェで焼きたてのクロワッサンにミルクたっぷりのカフェオレ。
実にシンプルである。香港では九龍サイドのお粥専門店で魚介のお粥やフェリー乗り場近くの飲茶に通った。ハワイではフルーツ・バイキングに搾りたてのグアバ・ジュース、フル・シテイ・ローストのコーヒーである。
アフリカ・ケニアではホテルの大きな庭でライブで焼いてくれるパンや肉、選び放題のフルーツ。それに何とタンザニアやケニア産のコーヒー豆も直火で焼いていて、庭に降りると香ばしい匂いが私を嬉しくさせた。
唯一苦手なのは仕事で行くイタリア・ミラノの朝食である。その理由はご存知のようにパンの硬さである。
そうしていろんな朝食スタイルを経験するのだが、私が最も感銘し朝食の贅沢さと時間の大切さを知ったのはタイの北部、アートと神秘の古都、チェンマイのブレック・ファースト・カフェである。

今のタイは世界最先端のカフェ・シーンを誇る。Bangkokのカフェはモダン、シンプル、ロースター、ファッション・ビルのフルーツ・カフェ、レコード他のコンセプトを売りにする店などカフェ激戦地で、勝ち抜く個性の強さがあり魅力いっぱいだ。最近では最もノスタルジックなチャイナ・タウンに超モダンなカフェが現れたり、カフェ文化のセンスが際立つ。世界のカフェ業界人がヒントを得ようと頻繁に訪れる街である。
そんな環境で古都・チェンマイはアート心と神秘性、美しさを兼ね備えた町の特性を活かしたカフェが点在する。ランナー王朝の寺院や城壁に囲まれた旧市街は古き良き世界に遭遇できる。町には歴史に溶け込むような知的心溢れるカフェ店主のこだわりが随所に漂っている。特に11月から2月の乾季は、涼しくアートな陶芸などを見て歩く散歩が楽しい。
カフェ文化が進んだチェンマイにはブレック・ファースト・カフェが沢山ある。朝7、8時に開店し多くは13:30には閉店する。私は何気なく朝の散歩の途中、ピン川の近くでForest Bake というカフェに出会った。爽やかな朝の空気に森のようなテラス席である。見ると果物が載った創作パンが美味しそうだ。歴史と芸術、神秘な古都に一体化したカフェで、この時に朝食の贅沢スタイルを初めて体感した。実にゆったりとし、朝一番から安らいで気持ち良い。

この体験に味をしめ、以来チェンマイらしい朝食カフェを巡ることになる。旧市街のSun Rays Cafeの焼き立てワッフルはパリ以上の美味しさであり、マンゴーをはじめ多種類の南のフルーツが山盛り。このカフェではソフトラテが美味い。ここもテラス席の居心地が良く果物のクオリティが高い。Robert Bake & Brunchは古いヨーロッパの洋館的建物で広々とした庭のテラスが心地良く、時折鳥がさえずる。
他にもGood Morning Chiangmai-Mai Cafeもお気に入りのカフェだ。忙しいはずの朝時間をゆったりと過ごす究極の贅沢。
こうなるともっと良い時間にしたいとJAZZを選ぶ。サックスのレジェンド・渡辺貞夫のソフトで温かい音色が妙にチェンマイの朝にハマるのだ。【ジャズ&ボッサ ライブ アット サントリーホール】に収められた【プレリュードのサンバ】や【ビューティフル ラブ】や【チャーリーパーカーに捧ぐ1969Live】の【パーカーズ・ムード】、【言い出しかねて】など名曲が朝の空気に溶けて行く。渡辺貞夫は92歳。何と26年は全国ツアーで沖縄でもLiveをした。円熟のサックスを聴くのは今である。

ロードサイドに面した小さなブレックファーストカフェでは何故かウエス・モンゴメリーのギターが気分だ。オクターブ奏法の才人にしてアドリブ・センス抜群のJAZZギター。妙にチェンマイにフィットするのがアルバム【California Dreaming 】のポップなリズム感で朝のフルーツ類やスムージーを更に美味しく、私の細胞を元気にする。

かくしてチェンマイは寺院や芸術を堪能するだけでなく美味しく贅沢な朝食を食べに行く町になった。
歴史と神秘の町チェンマイは乾季の12月上旬、デザイン・ウイークが開催される。朝、夜共に涼しく、雨季を脱っした気持ちの良い気候である。陶芸、シルク、木工を始めアーチストと作品が町の至る所に集結する。古都がいっそう煌めく日々である。私にとって心と美意識のストレッチ。その始まりはブレック・ファースト・カフェのフレッシュかつ贅沢なメニューである。
何度か訪れたチェンマイだが、もうひとつ、とっておきの楽しみがある。それは『ジップ・ライン』である。北部のジャングルの高い木と木をワイヤーで結び、そこにロープで吊った身体が猛スピードで駆け抜ける。丸でスパイダーマンの如く、高所のジャングルの空中を飛ぶ快感がある。長い距離もあれば短い距離もあり、私にとってスキーと並ぶ楽しみである。これらはコースで結ばれており、多くはたっぷりと半日楽しめる。ホテルのフロントで申し込み、北部のジャングルまで送迎してくれるので手軽に行ける。

ある時ジップ・ラインを終了し、昼食のサービスがあった。テントの周りは濃い緑のジャングルである。食事の後に微笑と共にコーヒーが出された。運んでくる途中、感じていたが深いフローラルな香りが絶妙であった。ひと口啜ると深煎りなのに何ともまろやかで優しい味である。
恐らくはジャングルで採れた野生のコーヒーであろう。私はこの時にこれまでで最も極上のコーヒーを体験したのであった。私が口に含んだ顔を見て、向こうで運んできた女性の微かな笑みが見えた。私は思わず頭を下げた。
チェンマイの北部、奥深いジャングルのテント張のテーブルで見ず知らずの山岳少数民族であろう人と一気に距離感が縮まる。出会いと感動。旅は私の五感を磨き至福の時をもたらしてくれる貴重な時間である。

ヒコ・ウォーケン(YASUHIKO TAKAHASHI)
ライフスタイル デザイナー
プロフィール:
ファッション、流通マーケティング分析、企画、音楽プロデュース、映像、販促、メデイア情報、講演を駆使し、ライフ・スタイルデザインを軸に多くの企業コンサルティングに携わっている。独自の感性、レーダー力、分析力で唯一無二のビジネスに定評が集まる。特に自らの持論である『文化情報経済』は常に時代を先取し、ビジネス・トレンドを創造し続け、今にある。現在は日本版【クオリティー・オブ・ライフ】の創造発信と体験型ライフデザインに力を注ぎ、精度の高い時間創造を提起している。
マデイソンコンサルティング創業者。