INTRODUCTION
星に夢中になり始めたのは14歳のころ、当時(1980年)手描きで作成したホロスコープを眺めては、惑星が示す意味と同時代の出来事との共時性にワクワクしていたのを覚えています。
そのときの天体配置で特に印象的だったのは土星と木星が共に乙女座から天秤座に移動して約600年ぶりに風のエレメントに集っていたこと。
いまでは多くの人が耳にする「風の時代」へのストロークを感じながら未来の私らしい在り方を模索していました。
そこから半世紀近い月日を経た現在、新しい時代の到来は外からもたらされる以上に、個々の内なる気づきと豊かな繋がりから拡がっていくのだと実感しています。
この連載では、惑星たちが奏でる二十四節気ごとの天体配置から、より魅力的で私らしい暮らしを楽しむための星々の語らいをお伝えしていきます。
小雪(しょうせつ)・射手座の季節(22 November)
「ワインを飲むことは、その土地の恵みとそこに暮らす人々の歴史を体感することである」
ワインにまつわるエピソードは産地ごとに伝えられていて、ヨーロッパの国々ではキリストの聖杯など神秘的な意味も浸透していますが、その伝来以前から大地の恩恵を祝い魂の結びつきを深める特別な飲み物として親しまれてきました。
太陽が蠍座から射手座へと移行する小雪(しょうせつ)にも、暖かな食卓に添えられた一杯のワインのように様々な意味が込められています。葡萄の栽培から収穫、そして発酵の過程には、蠍座が持つ「生命の循環」や「新たな再生」のニュアンスが重なります。
占星術では対岸の星座と向き合い学び合うことが尊ばれていますが、蠍座の対岸にある牡牛座は、大地の恵みとそこからもたらされる暮らしの彩りを意味し、蠍座と牡牛座の呼応には生命の仕組みを受け取って暮らしの豊かさへと繋げていく生成のプロセスが含まれています。
蠍座には「深い絆」というイメージもありますが、限定された地域や文化圏、血の繋がりや共通の体験で繋がっていた絆が、時に広い視野を阻んでしまうこともあれば、その絆の確かさや愛情深さを基盤に、より大きな可能性に向かって新たな旅や発展を試みることも出来そうです。
蠍座から射手座への太陽の移行にはそんな新たなチャレンジへの息吹が用意されていて、天宮図にも自由な精神性や体験の広がりを応援してくれる美しい天体配置がいくつも形成されています。
その一つが水瓶座に入ったばかりの冥王星に対するカイト(凧)と呼ばれるアスペクト。 射手座の太陽、獅子座の火星、牡羊座のドラゴンヘッドから形作られたトライン(三角形)に冥王星の軸だてが添えられることで一人一人に本質的な在り方への気づきが促されています。このカイトと呼ばれるアスペクトはもう一箇所形成されていて、MC(天頂)に輝く獅子座の月・牡羊座のキロン(治癒を司る小惑星)とともに三角形を描く射手座の水星が、同じく射手座のルーラー(守護星)である木星へと弓を引くように“天与の資質”を生かすための障壁となっている“様々な心の傷の修復”について解決の方向性を示しています。
この二つのカイトの重なり合いは「ひとりひとりが『私』という意識を持って日常を体験している」という、シンプルな実感を「奇跡のような体験」として深い角度から浮かび上がらせていて、私たちが当然のように感じている日常の在り方を少しだけ引きの目線で観察しなおしてみることで、これから願望を実現していくためのアイデアや最良のタイミングへと至る流れが、隠れた秩序で編成されていることに気付くことが出来そうです。
この内的な『私』と『体験』の捉えなおしには「神の手」と呼ばれる二つのYOD(ヨッド)と呼ばれるアスペクトも関与していて、このような占星配置は私が45年間星読みしてきたなかでも、かなり特別なイベント性を含んでいます。
どんなに求めても得られないものがある中で、あまりにも簡単に手に入ってしまったがためにその真の大切さを実感出来ず、人の痛みに鈍感になったり、失って初めて真価に気づいたり、私たちが陥りがちなパターンによって、本当に大切なことを台無しにしてしまうのではなく、どんな課題や関係性のなかにいても常に『私』を起点としていることで、あたりまえに捉えていたリアリティーの先に、これまでの期待や想像を超えた自由な可能性が見えてきやすいシーズンです。
さらに具体的なアドバイスとなると、一人一人の出生天宮図との響き合いの中で、解決のプロセスやそのタイミングを読み込んでいく作業が必要ですが、「星読み」という専門的なリーディングを介さなくても、私たちの日々の体験のなかに様々なシンクロニシティー(共時性)が現れています。
そのサインを見逃さないためのセンス磨きのひとつに占星術という学びがあるのかもしれません。
射手座の対岸には双子座があるのですが、一人一人が『私』というギフトをより広く深く本質的に捉えなおしていくためにも双子座の“シェアする喜び”を積極的に楽しむことも、この季節を彩り豊かな発見とともに過ごすためのアクセントになりそうです。
イズモアリタ(MASAFUMI ARITA)
星の神話とタロットの図象
/伝承叡智の研究
テキスタイル&グラフィック
/デザイナー
プロフィール:
星とタロットの図案家として 未発掘の心象シンボルと無意識の同時代カルチャーをスケッチしている。2004年より世田谷ものづくり学校にアトリエを構え、コンバースシューズやヤコブセンのチェアをはじめ、BEAMS、IDEE、CIBONE、サザビー、ほぼ日、JTB、伊勢丹BPQC、高島屋、等で様々なプロダクトを発表してきた。近年は、独自の縄文&出雲的な感性と星々との呼応から制作活動を展開。古代の伝承から同時代のものまで古今東西の文化に詳しく、ゼロ歳からのワークショップ、美術大学で造型指導も行っている。
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