INTRODUCTION

星に夢中になり始めたのは14歳のころ、当時(1980年)手描きで作成したホロスコープを眺めては、惑星が示す意味と同時代の出来事との共時性にワクワクしていたのを覚えています。
そのときの天体配置で特に印象的だったのは土星と木星が共に乙女座から天秤座に移動して約600年ぶりに風のエレメントに集っていたこと。
いまでは多くの人が耳にする「風の時代」へのストロークを感じながら未来の私らしい在り方を模索していました。
そこから半世紀近い月日を経た現在、新しい時代の到来は外からもたらされる以上に、個々の内なる気づきと豊かな繋がりから拡がっていくのだと実感しています。
この連載では、惑星たちが奏でる二十四節気ごとの天体配置から、より魅力的で私らしい暮らしを楽しむための星々の語らいをお伝えしていきます。

処暑・乙女座の季節
2025年8月23日

2025年8月22日

季節は処暑
暦のうえでは盛夏の峠を越え、
空気のなかにほんのわずかな「変化」が宿りはじめる頃。

昼間の陽射しは鋭さを残しつつも、
郊外に足を伸ばすと、虫の声が夜の静けさに滲みはじめ、
一日の終わりには、風が肌に触れる温度が
わずかにやさしさを帯びてきたことに気づかされます。

自然界は、新たなリズムに向けて、
大地が天体と呼応するかのように
少しずつチューニングを始めているようです。

占星術では、乙女座から新しい太陽が昇るタイミング。
獅子座の燃えさかる意志から一転して、
細やかな観察と秩序ある営みが求められるフェーズへと移行していきます。


乙女座生まれと聞いて思い浮かぶのは、
ゲーテ、宮沢賢治、
そしてジョン・ケージ。

いずれも乙女座支配星水星もつ整序の知性を携えながら、
向こう岸に広がる魚座と海王星の
深遠なヴィジョンを感受していた表現者です。

乙女座という個の境界がやわらぎ、森羅との共振へと開かれたとき、
その知性は“世界とともに聴く”という創造性へと昇華していくようです。

ケージは“聴くこと”のなかに偶然性を見出し、
新たな音楽の地平を切り拓きました。

禅と『易経』から着想を得た
チャンス・オペレーション、そして《4分33秒》の歴史的な演奏
プリペアドピアノ、キノコの採集、
小鳥たちの声を楽譜にしたスコア……

それらの試みはいずれも、“形にできないもの”を
乙女座的な構造と思考によって受けとめ、再配置しようとした
ひとつの軌跡と呼べるでしょう。

ケージは「魂のシンプルさ」を説いた
神秘思想家マイスター・エックハルトにも深く共鳴し、
偶然性や沈黙への模索をいっそう深いものにしていきます

この着想は禅の「空」にも通じ、
ケージにとって「沈黙」は単なる無音ではなく、
環境音や存在そのものとの共振への入り口だったのです。


乙女座0度の太陽は、
牡羊座8ハウスの土星・海王星、水瓶座6ハウスの冥王星によって
“ヨッド(神の指)”と呼ばれる特殊なアスペクトを形成しています。

ヨッドはしばしば、宿命的な方向転換や“意識の狭間”を象徴します。

乙女座の太陽は、内なる秩序を整える使命を示しつつ
個としての役割や資質の捉え方を根底から変革する配置になっています。

また、双子座MCには天王星が位置し、
この冥王星・土星・海王星とセクスタイルやトラインといった
調和的な関係を築いています。

すなわちこの日は、
“固定された視点からの離脱”と、本質的な眼差しからの深掘りによって、
私が私であるための“知覚の革命”が誘発されるアスペクト。

個々のアイデンティティーに関して
所属する社会の要望や、過去からの決め付けに対し、
自らの在り方を新たな視点で分析し自己管理を試みる感性が
開かれていきそうです。

このヨッドと天王星の関係性は、
「偶然」や「変化」に導かれながらも、
それを構造的に捉えなおす乙女座的知性にとって
重要な課題を提示しているように思えます。


ケージの《4分33秒》には、
“聴こえてくる世界を、ただ受けとる”という姿勢がありました。

私たちは「いま」という瞬間に
この世界に何を“聴こう”としているのでしょうか。

また「聴こう」とする意図すら手放したとき、
そこには、どのような響きが立ちあらわれるのでしょうか。

この乙女座の季節は「聴く」ことの奥に潜む感性を磨くとき。
身体のリズムや無意識のささやきに耳を澄ます時間です。

乙女座が司る“秩序”とは、過去に縫い留められたものではなく、
不断の動きのなかで、しなやかに調律され続けるもの。

ゆらぎのなかで見いだされるその感性こそ、
今、私たちに求められているのかもしれません。


イズモアリタ(MASAFUMI ARITA)

星の神話とタロットの図象
/伝承叡智の研究
テキスタイル&グラフィック
/デザイナー

プロフィール:
星とタロットの図案家として 未発掘の心象シンボルと無意識の同時代カルチャーをスケッチしている。2004年より世田谷ものづくり学校にアトリエを構え、コンバースシューズやヤコブセンのチェアをはじめ、BEAMS、IDEE、CIBONE、サザビー、ほぼ日、JTB、伊勢丹BPQC、高島屋、等で様々なプロダクトを発表してきた。近年は、独自の縄文&出雲的な感性と星々との呼応から制作活動を展開。古代の伝承から同時代のものまで古今東西の文化に詳しく、ゼロ歳からのワークショップ、美術大学で造型指導も行っている。

イズモアリタ instagram
@izumoarita