JOURNAL
自分が自分らしくあるために、
幸せを実感しながらより輝いて生きるひと。
ブレない軸を持ち、本質的な豊かさを見出だすひと。
そんなイラリなひとに、豊かな暮らしの本質を学びます。
時代の先をゆく賢者たちのライフスタイルから、
強く、しなやかに生きるヒントを見つけてください。
“予期せぬ偶然”を楽しむ力「セレンディピティ」が導く、 心豊かな生き方のヒント
Vol.12 ノイハウス萌菜(ノイハウスもな)さん

2016年から東京での生活をスタート。外資系コンサルティング会社の日本支社勤めのかたわら2018年に『No Plastic Japan』(のーぷら)を設立。環境問題を自分ごととしてとらえ、それぞれが無理なく日常に取り入れられるエココンシャスな生き方を発信してきた。現在は、ラジオパーソナリティ、イベントのMCや通訳、そして2児の母として育児と仕事を両立する。
「先のことはわからない、だから今を精いっぱい生きるだけ」と語るノイハウスさん。その根幹にあるのは、予期せぬ偶然を楽しみ、日々の変化を幸運な発見に変えてしまう柔軟な精神力。
「“今”が一番幸せです」と、常に前を見続けるポジティブなマインドセットは、どのように形成されたのだろう。
また子育てを通して、暮らしへの意識や価値観はどう変わったか。公私を通し、ノイハウスさんの視点を軸に、「偶然を幸運に変える」心豊かな生き方について学びたい。
第1章:偶然が導いたキャリアの始まり
「使い捨て」への違和感から生まれた新たなミッション
大学卒業後、ロンドンにある日本企業に勤めていたノイハウスさんは、たまたま目にした東京のコンサル会社の求人情報を見つけて応募。その会社からオファーを受けると、1カ月後には日本への転居を決行した。2016年5月のことだ。
この思い切った決断が、彼女のその後の人生を大きく動かすことになった。
「初めての一人暮らしが始まり、日本での生活は、とても便利で快適でした。でも一方で、イギリスよりもはるかに多くのプラスチックゴミを出すことに驚きました。感じの良いオーガニックカフェが、使い捨てのカップで水を出していたり、会社の同僚は、毎日のようにコンビニでお弁当を買い、プラスチックの袋やフォーク・スプーンをもらってきたりして。食べ終わると捨てちゃうので、ゴミ箱はすぐにいっぱいに…」
この衝撃が、彼女の環境活動の原点であり、日本企業で働く傍ら、『のーぷら No Plastic Japan』を立ち上げるきっかけとなった。
『のーぷら』の最初の取り組みとして、洗って繰り返し使えるステンレスストローの販売を始めた。単なるビジネスとしてではなく、日本の暮らしに「使い捨て」という概念を見直してもらうための、彼女なりのアクションだった。経産省によるレジ袋有料化が始まる数年前のことだ。
「マイストロー」という新しい習慣が、環境への意識を広げる第一歩となった。

なぜラジオ?― 未経験の挑戦がくれた「勇気」というギフト
『のーぷら』の活動は、テレビや雑誌などで取り上げられ、瞬く間に話題となった。会社員として働きながら社会課題解決に取り組む「新しい女性アクティビスト」として、多くのメディアがノイハウスさんに注目したのだ。雑誌の取材や環境イベントでの登壇など、活動の場が広がる中、ノイハウスさんのインタビュー記事を読んだラジオ局のチーフディレクターから、「ナビゲーターのオーディションを受けてみない?」と声がかかった。

「初めてラジオのパーソナリティというお仕事の依頼をいただいたとき、正直、驚きました。全く経験したことのないジャンルでしたし、日本のラジオもあまり聞く機会がなかったからです。“なんで私に?”と思いながらも、楽しそうだしやってみたい、という好奇心からオーディションを受け、採用が決まったのです。
そこからわずか2カ月で番組がスタートするというスケジュールで、本番に向けて練習する時間はほとんどなく、右も左も分からないまま当日を迎えました。4時間通しの生放送ですし、さすがにオンエア前日は気分が悪くなるほど緊張しました(笑)」
しかし、この「右も左もわからない」状態が、彼女の最大の強みとなった。「ラジオ番組はこうあるべき」、という固定概念に縛られることなく、ありのままの自分らしさを活かしたトークスタイルを確立していった。
「ただただ、やりながら学んでいった」
そのリアルで自然な語り口調からは、気負いのない、飾らない彼女のキャラクターが感じられ、聴く側にも心地よい新鮮さを届けた。
ラジオパーソナリティという未知の世界に飛び込んだノイハウスさん。「最初から完璧じゃなくてもいい。固定観念にとらわれず、自分の気持ちに正直に行動すれば、新しい世界が見えてくるはず」
そう思ったという。
第2章:ラジオが教えてくれた「本当の自分」
キャリアや人生の転機に「諦める」という選択肢は存在しない

2023年、第2子の出産を機に半年間の産休・育休に入ったノイハウスさん。せっかく手にしたラジオのレギュラー番組を前に、不安はなかったのだろうか。
「すごく不安でしたね。半年の間に、“私のポジションは無くなるかもしれない”“忘れられてしまうんじゃないか”と考え、悩みましたが、思い切って“番組に戻ってきたい”という私の意志を、スタッフの方々に相談したのです。すると、“もちろんOKだよ”って。私の決断を快く受け入れ、産休中の番組構成や、復帰への道を一緒に考えてくれたのです。本当にありがたかったですね」
実は会社員時代には、勤務と環境活動を両立させるため、週5日の出勤を週4日に変えてもらった経験がある。
「妊娠・出産は人生の大きなイベントです。それが、自分のキャリアにとって“今はタイミングが悪い”なんて考える必要はないと思うんです。子育てと仕事、自分の“好き”を両立させるなんてムリ、とか、“今の職場ではできるわけない”と諦めるのではなく、どうすれば希望が叶うのかを考え、交渉したり行動したりすることが大切なんだと、自分の体験から学びました」
キャリアや人生の転機には、誰にでも多様な選択肢がある。そこに、「諦める」という選択肢は存在しないと語ってくれた。
どんな変化も、新しい自分と出会うチャンスなのだから。
育休中に気づいた、声が持つ無限の力

「産休の期間は、パーソナリティという仕事から離れ、家でじっくりと自分の番組を聴く時間がもてました。朝9時のラジオが、聴く人にとってどんな役割を果たしているのか、そのとき初めて気づいたんですよ」
リスナーの立場になって、ラジオが人々の生活に寄り添い、何気ない日常に彩りをプラスする存在であることを実感したという。
それまでは“ラジオが元気を与える”といった言葉を、なんとなく他人事のように感じていたそうだ。
「“ラジオって、聴く人に勇気を与えてくれる存在なんだ”って。“自分もこういう役割を担っていたんだ”と実際に感じたことで、その後の仕事へのモチベーションも大きく変わりました」
リスナーの人生に寄り添う「声の持つ力」を知ったことが、その後、パーソナリティとして更なる深みを生み出していった。
91歳のレジェンド、ジェーン・グドール博士との忘れられない出会い
今年6月に開催された来日イベント。ハードな日程にもかかわらず、壇上で「私たちには世界を変える力があります。共に歩みを進めましょう」と力強く語る博士の姿に、ノイハウスさんは圧倒されたという
ラジオの仕事だけでなく、講演やイベントのMC、ワークショップの司会、そして通訳など、活躍の幅を広げているノイハウスさん。たくさんの著名人と出会う機会にも恵まれた。
「多くの素晴らしい方々と出会う中で、特に印象に残っているのが、2025年6月に来日した動物行動学者のジェーン・グドール博士です。『希望は、行動の中にある』というメッセージを日本の若者や市民に届けることを目的に開催された3日間のイベントで、通訳とインタビューを担当させていただきました」
グドール博士は、チンパンジーが道具を使うことを世界で初めて証明し、動物にも感情や知性があるという概念を確立した世界的動物行動学者であり、国連平和大使でもある。
91歳を迎えた今も、あらゆる生命の尊さや、人間が自然と調和して生きることの重要性を訴え続け、年間300日近くもの時間を、世界各地での公演に捧げている。
『私たちは、理解して初めて関心を持つ。関心を持って初めて行動ができる。そして行動して初めて、“希望”が生まれる』と、ご自身の哲学を語ってくれました。博士の講演を間近で聞き “自分を前に出さず、行動で示す”その姿勢に深く心を打たれました。
動物や環境のことを考えて、常に謙虚に、一筋に行動し続けている姿に、偉大な環境保護活動家であると同時に、真のリーダーとして、そして人としてのあるべき姿を見せてもらったような気がします。私自身、年齢を重ねても謙虚な気持ちと思いやりの心を忘れず、未来に向かって行動できる人でありたいと、改めて心に誓いました」
第3章:人生を深くする「学び」と「マインドセット」
計画しない「未来」を楽しむ
これからどんな人生を歩みたいか、5年、10年先のキャリアをどう思い描いているか質問すると、意外な答えが返ってきた。
「自分の人生の流れに身を任せるだけ」というのだ。
「正直、人生計画ってまるでないんですよ。目の前の仕事がいつ終わるかもわからないし、明日のことは予測できません。だからこそ、流れに身を任せて、その時々でベストを尽くそうという気持ちで日々を送っています」
未来を思うとき、「5年後と言わず、1年後には全然違う自分になっているだろうな」と、きたるべき変化を心から楽しみにしている。その柔軟な思考は、16年間欠かさず綴り続けている日記によって培われたという。
「過去の自分を振り返ってみると、今の悩みがちっぽけなものに思えるんですよ。そして、未来に対して前向きな気持ちになれる」
未来の不確実性を受け入れ、今この瞬間を全力で楽しむこと。まさに、計画するより先に行動ありき。変化を恐れず飛び込んでみることで、新しいチャンスを掴んできたノイハウスさんがもつ「強さ」が腑に落ちた。
生産性にとらわれない「未知なる学び」には価値がある

ノイハウスさんが、最近新たに取り組んでいることがある。仕事やキャリアとは直接関係のない「純粋な興味」から、アラビア語の学習を始めたそうだ。生産性にとらわれず、好きなことを追求することに、大きな意味を感じているという。
「週に一度、オンラインで先生と向き合い、最初はアラビア文字から学びました。日常会話ができるようになるには、まだ時間がかかりそうですが、新しい言語に触れると、これまで気づかなかった新たな発見があって、すごく面白いんですよ」
たとえば、「お元気ですか?」という挨拶に対して、英語なら“How are you?”“I'm fine, thank you.” といった定型表現があるが、アラビア語には、そういった決まり文句がないそうだ。
「相手の気分を尋ねる挨拶の返答として、日本語や英語のように、本当の気持ちに関係なく『元気です』と答えるのではなく、“今日は気分が悪いよ”などと正直に答える文化があったり、“平和があなたに訪れますように”といった詩的で温かい言葉を交わしたりすることもあって。カルチャーの違いを感じました」
アラビア語学習はノイハウスさんにとって「直線で終わらない学び」だ。
「資格を取るとか、仕事に活かすとか、目的があるわけではありません、 “習得したら終わり”という直線的なものではなく、私の人生を少しだけ豊かにしてくれる“永遠の学び”と言えるかもしれません」
ただ純粋な興味からアラビア語に触れ、言葉の背景にある文化や価値観の違いを実感したときのワクワク感。知的好奇心を満たしてくれる「冒険の旅」を、居ながらに味わっている。
第4章:誰かのために、私らしく
完璧主義を手放し「余白」を大切にする暮らし
ノイハウスさんが考える「本当の豊かさ」とは、決して物質的なものではなく、精神的なゆとり、つまり「余白」をもつことだ。
「スケジュールを詰め込み過ぎず、常にちょっとした余白を残しておきたいんです。たとえば、道端で困っている人がいたら、手を差し伸べられるくらいの時間の余裕や心のゆとりをもっていたいと思います」
環境への意識や社会への働きかけ、ふと思い立って出かける家族との旅行、好奇心の赴くままに未知なる言語を学ぶのも、「余白時間」があってこそ。
ゆとりがあれば、思い通りに行かないことがあってもストレスにならないと語る。
「子育てで完璧なエコ活動が難しくなっても、“できることからやろう”と考えるようにしています。ストイックになりすぎず、変化を柔軟に受け入れていることが、豊かさにつながるんじゃないかな」
育児中も持続可能な形で環境と向き合ってきた。いつも笑顔でキラキラと輝き「幸せな自分」でいられる理由だ。
「仕事をしながらの家事・育児で大変なときもあるけれど、自分の心を映すように、子どもから“ママ、大丈夫?”とか、“ありがとう”といった温かい言葉が返ってきたとき、日常の中に小さな喜びを見つけることができます。こんなに幸せなことはない、と思うんですよ」
「仕事も家庭もすべてが楽しい」と話すその姿は、自ら考え、常に自分らしくいられる「居場所」をもって生きてきた証。
「完璧を目指さなくて大丈夫」。ノイハウスさんのメッセージは、私たちに「ありのままの自分」を愛することの大切さを教えてくれているようだ。これからも、「行動ありきのエココンシャスな生き方」を提案するアクティビストとして、「幸せの連鎖」を未来に広げていってほしい。
ジャストナチュラル
16年綴り続けた「日記」

16年続けている日記があり、書かない日もあるが細く長く続けている。現在は十年日記を使い、1日あたりのスペースは3〜4行程度と少ないが、続けることで前の年の自分を振り返る楽しさがある。最初は普通のノートに書き始め、ティーンエージャーの頃から習慣として続けてきた。
旅の記憶を刻む「私だけのお守り」

旅先で買う指輪。社会人になってからはあまり頻繁には旅行できていないが、これまで訪れた国は40カ国程度。一人旅から、友達との旅行、今となっては家族旅行などといろいろなスタイルを体験してきた中で、新しい場所に行く時には指輪を自分のお土産にしている。決して高価なものとは限らず、スリランカでは数百円のリングをマーケットで買ったりと、その時ピンときたアイテムを選んでいる。
ロンドンは「肩の荷が下りる」場所

日本は全てがきちんとしていて素晴らしい反面、その完璧さを自分にも求めて辛くなってしまうことがある。ロンドンはそれに比べると、店内サービスから公共交通機関までが少し適当な部分があるため、なんだか自分の肩の荷も降りる感覚。ロンドンは完璧を求めすぎないけど、思いやりはたっぷりある環境。ありのままの自分に戻れる、故郷の一つだ。

ノイハウス萌菜さん(Mona Neuhauss)
プロフィール:
ドイツ生まれ、イギリス育ちのトリリンガル。 コンサルティング企業の会社員生活と並行して始めた環境問題に対するアクション(「のーぷら No Plastic Japan」)がメディアに幅広くとりあげられ、それがきっかけとなり、ラジオ ナビゲーターとしての活動を開始。J-Waveにて平日の帯番組 STEP ONEを担当。現在は、イベントやトークショーの司会、ナレーションなども務める。
インスタグラム
https://www.instagram.com/mjneuh/
取材を終えて
ノイハウス萌菜さんの「自分らしい軸」
ドイツ人の父と日本人の母のもとに生まれ、イギリスで育ったノイハウス萌菜さん。グローバルで多角的な視点から日本社会を見つめ、疑問に思ったことは、臆することなく周囲に問いかける。その根底には「多くの人に自由な選択をしてほしい」という強い思いがある。
会社員と環境活動家を両立させ、出産・育児を経てキャリアを再構築した彼女は、多様な働き方を推奨する。自身が歩んできた「バラバラなキャリア」があったからこそ、今があるのだとか。
ドイツ語、英語、日本語、そして時々アラビア語…。それぞれの引き出しは、どこを開けても彼女らしい輝きに満ちているに違いない。
思い立ったらすぐ旅に出るフットワークの軽さや、行動することを恐れない「正義感」が、これまで彼女を突き動かしてきた原動力であり、輝きの源だ。
多忙な中でもヨガインストラクターの資格を取得し、物事への執着を手放すことや、自分との葛藤を通じて成長することを学んだという。
今は「お休み中」というMona Yogaの再開を期待したい。
取材・文
山田 ふみ