INTRODUCTION

星に夢中になり始めたのは14歳のころ、当時(1980年)手描きで作成したホロスコープを眺めては、惑星が示す意味と同時代の出来事との共時性にワクワクしていたのを覚えています。
そのときの天体配置で特に印象的だったのは土星と木星が共に乙女座から天秤座に移動して約600年ぶりに風のエレメントに集っていたこと。
いまでは多くの人が耳にする「風の時代」へのストロークを感じながら未来の私らしい在り方を模索していました。
そこから半世紀近い月日を経た現在、新しい時代の到来は外からもたらされる以上に、個々の内なる気づきと豊かな繋がりから拡がっていくのだと実感しています。
この連載では、惑星たちが奏でる二十四節気ごとの天体配置から、より魅力的で私らしい暮らしを楽しむための星々の語らいをお伝えしていきます。

霜降・蠍座の季節
2025年10月23日

2025年10月22日

霜降の気配が満ちてくる頃、夜空は透きとおり、
空気は張りつめた硬質さを帯びてきます。

表に見えていたものが静かに引き下がり、
奥に潜むものが呼吸を始める。

蠍座の太陽が照らすのは、まさに「見えないもの」
「内に秘められたもの」「死と再生の境界」です。


霜降のホロスコープでは、蠍座の太陽が9ハウスに輝き、
水瓶座アセンダントの冥王星と緊張の角度を結んでいます。

それは、新時代における生命倫理と、
AIが集合意識や無意識に及ぼす介入という、
私たちが避けて通れない哲学的課題を浮かび上がらせます。

さらに、蠍座のMCに寄り添う月・水星・火星のステリウムは、
魚座の土星・海王星、蟹座の木星と大きな三角形を描きます。

それは、経済や労働環境をめぐる社会的な課題に、
私たち一人ひとりの暮らしや心情がどのように反映されるのかを
浮き彫りにしていきます。

また、水瓶の冥王星、双子の天王星、天秤の金星が織りなす風のトラインは、
こうした問いが制度や理念の次元にとどまらず、
私たちの生活の深層にまで届いていくことを示しています。

この星の配置を映すかのように、
蠍座生まれのエマ・ストーンが放った二つの映画が思い出されます。

蠍座の太陽の下に生まれた彼女は、
表層の華やかさの奥に、沈黙と変容の強度を宿す俳優です。

『ラ・ラ・ランド』でのきらめきの陰に潜む孤独、
『女王陛下のお気に入り』で見せた権力と欲望の交錯、
そして『哀れなるものたち』(2023, 原題 Poor Things)では、
死から蘇った女性ベラを演じ、
自らの身体と意志を通して「生き直す」という蠍座的テーマを、
圧倒的な存在感で描き出しました。

ベラは、一度 “死”を経験したのち、
新たな魂を吹き込まれた身体として甦る存在。
彼女は世界を再び学びながら、性的・倫理的・社会的な抑圧を破り、
「誰のために生きるのか」「生きるとは何か」を、
肉体の喜びと痛みを通して再定義していきます。

それは蠍座の象徴する〈死と再生〉のプロセスそのものであり、
腐敗から発酵へ、終焉から創造へと転じていく生命のリズムと共鳴しています。

監督ヨルゴス・ランティモスによる挑発的な映像世界の中で、
エマ・ストーンは“闇を経て光に至る魂”として、

破壊を恐れず、変容を引き受ける蠍座的な誠実さを体現していました。

一方、『哀れみの3章』(原題 Kinds of Kindness, 2024)は、
同じ監督との再タッグで生まれた三部構成の作品です。

「愛」「欲望」「破壊」という三つの幕で、
人間の本性を容赦なく剥ぎ取っていく。

そこで彼女が演じるのは、救いを拒みながら闇に沈む者たち。

自己犠牲と支配、信仰と背反、欲望と喪失
それらが曖昧に絡まり、
誰もが“他者の夢の中に生きる”ような不安定さを映し出しています。

観る者は、答えのない迷宮のような闇のなかに立たされ、
容易な救済を求める心そのものが試されていくのです。

それは蠍座が持つ「闇に沈む勇気」「破壊を通じて変わる力」を、
現代社会の比喩として示しているようでもあります。

けれども、霜降という季節の太陽が告げているのは、
闇の中にこそ沈殿する厚みがあるということです。

大地が冷えて眠りにつき、根の奥で力を養うように、
私たちの魂もまた、闇にとどまることで世界を見るまなざしを深めていく。

エマ・ストーンという一つの鏡を通して見えてくるのは、
“壊れること”を恐れず、“再び生きる”ことの美しさ
蠍座の季節が差し出すのは、
まさにその〈再生の知恵〉なのかもしれません。


イズモアリタ(MASAFUMI ARITA)

星の神話とタロットの図象
/伝承叡智の研究
テキスタイル&グラフィック
/デザイナー

プロフィール:
星とタロットの図案家として 未発掘の心象シンボルと無意識の同時代カルチャーをスケッチしている。2004年より世田谷ものづくり学校にアトリエを構え、コンバースシューズやヤコブセンのチェアをはじめ、BEAMS、IDEE、CIBONE、サザビー、ほぼ日、JTB、伊勢丹BPQC、高島屋、等で様々なプロダクトを発表してきた。近年は、独自の縄文&出雲的な感性と星々との呼応から制作活動を展開。古代の伝承から同時代のものまで古今東西の文化に詳しく、ゼロ歳からのワークショップ、美術大学で造型指導も行っている。

イズモアリタ instagram
@izumoarita