Vol.1  ナチュラルワインを選択するということ

2024年5月17日

はじめまして。都内でワインショップを経営している丸山謙二と申します。
ワイン業界に長く携わり、その中で出会った多くの造り手さん、数々の素晴らしいワインに影響されてきました。 特にナチュラルワインの世界に引き込まれ、気が付けばもう20年以上が経ちます。

このJUST WINEでは、大好きなナチュラルワインの魅力を正しく知ってただけるよう連載してまいります。少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。

ナチュラルワインとの出会い

初めてフランスのワイナリーを訪問したのは、ナチュラルワインのことなど何も知らない29歳の時でした。 重たい一眼レフカメラを首からぶら下げ、10日間かけて多くのワイナリーを見学し必死でメモを取りました。
初めてのことばかりで、心も体も緊張している中訪れた南フランスの小さなワイナリーでの体験が、私の価値観を変えることになります。

素朴ながら重厚感のある佇まいの醸造所は歴史を感じさせます。ぽかぽかとした穏やかな昼下がり。 手入れの行き届いたオーガニックの葡萄畑はとてものどかで、小鳥のさえずりと私たちの足音、そして造り手さんの低い声だけが聞こえてきます。 言葉はわからなくてもその穏やかな口調と優しい笑顔に癒され、疲れていた身体はすっかり緩んでいきました。

その時に試飲した昔から変わらない製法で造られたワインが、感動的に美味しかったことを覚えています。 穏やかで優しい雰囲気の造り手さんの性格が表現されているような、誰にも真似することのできない美味しいワインでした。

そして同行した先輩ソムリエから聞いた話を今でも思い出します。
「彼らはこういう美味しいワインを造るのは上手いけど売るのは苦手なんだ。 思うように売れなければ、売りやすいワインを造ろうとするだろ?売りやすいワインってどんなワインか分かる?まずは殺虫剤や化学肥料を使って効率的に安い葡萄を作るんだ。 より安定した生産量を確保することができるからね。その葡萄を流行りの培養酵母で発酵する。ねらい通りの画一的な美味しいワインが出来るけどどこで誰が造っても一緒。 つまらないワインだと思わない?折角ワインを飲むなら、その産地ならではの特徴や個性を表現した本物のワインの方が良いでしょ。 でも売れなければこういう本物のワインがなくなっちゃうかもよ。丸ちゃんどうする?」その頃の私には衝撃的でした。

それからナチュラルワインに傾倒していくことになります。
「世界中に溢れる多様なワインの中から、ナチュラルワインが選択肢の一つになるように皆さまに正しく知っていただきたい。」そんな思いで大好きなナチュラルワインの奥深さや楽しみ方についてお伝えしていきます。

そもそもナチュラルワインとはどんなワインなのでしょう

一言で説明するとこうなります。
「原料である葡萄の栽培と、 葡萄をワインに仕上げる醸造とが、自然なアプローチでなされるワイン」。 実はとても曖昧で明確な定義がありません。ワインメーカーや流通関係、ソムリエなどのワインのプロの間でもその解釈は様々です。

ナチュラルワインについての一般的な考え方、また定義がないからこそ私の見解も合わせてお知らせしていこうと思います。 そのほか、ナチュラルワインの楽しみ方、お料理との相性、分類や認証制度、葡萄の栽培、ナチュラルワインの醸造、酸化防止剤の理解、ワインの熟成、 ボトルの保存、ワインの産地と味わいの関係、ペットナットやオレンジワインなど、様々な切り口でナチュラルワインを解説していきます。

ナチュラルワインという選択。

現在、葡萄の栽培やワインの醸造の技術はめまぐるしい進歩を続けています。
昔ながらの手法で造られたワインから、最新技術を駆使して造られたワインまで。いつ、どこで、誰と、どのようなワインを楽しむのか。TPOに合わせて私はナチュラルワインを選びます。

「神様から与えられた畑はお借りしているものである。ご先祖様から引き継ぎ、健全な状態で次世代に渡さなければならない。」造り手さんから聞いた言葉です。

環境にも配慮した持続可能な農法のナチュラルワインを選ぶことが、これからの地球や社会に貢献することにも繋がります。 ナチュラルワインを飲むと美味しいのはもちろん、なぜかとても癒されます。身体の隅々まで沁みわたり元気になります。
この連載をお読みいただくことで、自然環境にも身体にもやさしいナチュラルワインの魅力を感じていただければ幸いです。

丸山謙二さん(KENJI MARUYAMA)

有限会社みどりや酒店代表取締役

プロフィール:
大学卒業後、建設工事の現場監督を経て、家業の有限会社みどりや酒店に入社。三代目社長。
(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
ショップでのワイン販売、飲食店のワインリスト提案、ワインセミナー講師、たまに配達、そのほか、生産地に脚を運び自ら買い付けるワイン人。
自然派ワインを広めるべくワイン関連の様々なイベントを企画、開催。異業種とのコラボレーションなどにも積極的に携わる。美味しいものを食べて、ワインとの相性を試したり、想像したりすることが大好きなおじさんだが、最近体脂肪率が気になり筋トレを続けている。
ロワールワイン ワインアドバイザーコンクール全国第3位。みどりや和飲学園園長。
自然派ワインで世界平和!を願う、やぎ座のAB型。子年。