JOURNAL
自分が自分らしくあるために、
幸せを実感しながらより輝いて生きるひと。
ブレない軸を持ち、本質的な豊かさを見出だすひと。
そんなイラリなひとに、豊かな暮らしの本質を学びます。
時代の先をゆく賢者たちのライフスタイルから、
強く、しなやかに生きるヒントを見つけてください。
世界のVIPたちを魅了するプライベートジェットCAに学ぶ 「最上級のおもてなし術」―後編―困難を乗り越え、しなやかに生きるヒントVol.2 今泉麻衣子さん
現役プライベートジェットCAであり、またホスピタリティ・コンサルタントとして世界基準のホスピタリティのあり方を企業研修、新人CA養成プロジェクトなどを通じて世に広めている今泉さん。 前編ではプライベートジェットのお仕事やVVIPのお客様に選ばれ続けるために実践している「心からのおもてなし」についてお伝えしました。後編では、今泉さんご自身の波瀾万丈な半生の中で学び得た教訓、そして辛い経験をしなやかに乗りきった先に見えてきた「未来への想い」について伺います。 たとえ落ち込んだり、傷ついたり、悩んだりしても、前を向いて豊かに自分を成長させるヒントがそこにありました。
CONTENTS
世界83ヵ国、500もの国と地域を訪れ
滞空時間は10,000時間以上!
「そもそも私がCAの仕事をしてみたいと思った理由は、好きな語学を生かして世界とつながりたい、誰かの橋渡し役になりたいという気持ちがベースにあったからです。国際人としてキャリアをもつ女性になろうと夢を描き、大学を卒業すると航空会社のみを受験しました。幸運にもANAから内定をいただき、国際線CAとして5年9カ月勤務しました。そして、退職した翌年にプライベートジェットCAとしてお仕事をさせていただけたことは、本当にラッキーでした」
CAとして、今までに世界83ヵ国、500余の国と地域を訪れ、滞空時間は10,000時間を超えた今泉さん。これを日数にすると、416日以上も滞空した計算になる。空の上で1年と2ヵ月もの長い時間を過ごす中で、ときには名前も知らないような外国の田舎町で飛行機から降ろされ、たったひとりで小さなホテルに泊まるという経験もたくさんしてきた。
「おかげで今では世界のどこへでも自分ひとりで行けるという自信+強いマインドセットが身についた」という。
仕事で訪れたモルディブで新年を迎えた2019年
光り輝く街。パンデミック前に訪れたモスクワで過ごしたクリスマス
世界最古の教育機関といわれている「アル=カラウィーイーン大学」モロッコにて
2019年、アメリカ、カリフォルニア州バームスプリングスにある史跡『シップロック』にて。この山をわずか30秒で駆け上る というやんちゃぶり
「娘ともいろいろな場所を旅しました。コロナ禍前はトルコのカッパドキア、イスタンブール、モロッコ、パリ、バリ島やベトナム・ハノイ、韓国、アメリカ本土やホノルルにも数回行きました。
行く先々でレンタカーを借りて気ままなドライブを楽しんだり、ホテルやレストランなどではその国の言葉で話したりするのを見てきた娘は、“旅とはそういうもの”と思っているみたいです。
お友達や先生にお話しすると面白がられるそうで、海外や私の仕事には興味を持ってくれているようです」
離婚・シングルマザー・乳がん告知・・・
波瀾万丈な道のりを超えた先に見えた光とは
2023年2月、仕事でホノルルに9泊。クルーとドライブや食事を楽しんだ。"Count your blessings"(自分が恵まれている ことを数えよう)が座右の銘。いつも良い事に目を向けて、そこに感謝
「プライベートジェットのCAというと、キラキラとしたキャリアを想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、ここまで決して順風満帆な道のりだったわけでありません。辛い離婚を経験し、シングルマザーとして現在14歳の娘をひとりで育ててきました。そして、2019年に乳がんと告知されたときは頭の中が真っ白になりました。娘のこと、仕事のこと、この先どうしよう…。そんなふうに考えて途方に暮れましたが、信頼できる女医さんと出会い、周囲の人にも支えられ、強い気持ちで手術を受けることができました」
手術の前後には、ホノルルのワイキキビーチにある『聖なる石群』と呼ばれるパワースポットを訪れ、祈りを捧げた。その甲斐あってか、手術からわずか3週間で仕事に復帰。しかしその後、ホルモン剤の投与が始まると重い更年期障害のような症状に悩まされ、常に気持ちが落ちているような状態になってしまったという。
「ちょうどその時期に娘の中学受験が重なり、娘も私の体調の変化や受験のストレスで大変だったのではないかなと思いますね」
それでも頑張って3年間、継続してホルモン剤を飲み続けたが、本当にしんどい時期だったと振り返る。
けれど、そこで負けてしまうのか逆に気持ちを高めていくのかは、結局自分の心のもち方ひとつ。 ホルモン剤投与をやめることを決意したとき、医師にこう相談した。
「私にはもっと力がある、もっと強いし、もっとポジティブにいろんなところに動いていける人間なのに、この薬が自分のQOLを下げているように思う。だからもう、飲むのをやめたい」と。
私はできる、当たり前にできる。こんなもんじゃないー。薬をやめることによるリスクもあるけれど、今までこれだけのことをしてきた自分のパワーを信じようー。
そう心に決めたのだ。
「フライトの中で何度となく大変な局面を乗り超えてきた“挽回力”がすごく役に立ちました。今でも毎日、私はこんなもんじゃない!と思っていますよ」と笑う。
2019年モスクワの赤の広場と聖ワリシイ大聖堂
2019年の誕生日はアブダビで。滞在10時間のショートステイだけれど、バケットリスト(生きているうちにやりたいこと)にあった『グランド・モスク』に来れて良かった!
仙台から7時間半かけて三重県尾鷲市へ。2泊分のリュックを担いでスピリチュアルな空気が宿る熊野参詣道をひたすら 歩いたのは、手術を年明けに控えた2019年12月のこと
乳がんを告知された2019年秋。9月末に組織検査をして10月に乳がんであることが分かり、2020年1月頭に左胸の乳腺全摘という大手術を受けた。
しかし、手術直前の11月にインド、12月にはモスクワ、そしてホノルルのフライトに乗務するなど、普段と変わらずにフライトスケジュールをこなしていた今泉さん。
インスタグラムを見ると、海外だけでなく、三重県の熊野古道伊勢路を踏破するなど、実にアクティブに国内外を移動していたことがわかり、がんと告知されたひとにこんなことできるのか!と驚くばかりだ。
「何があっても、私は大丈夫」
心の弱さ以外に超えられないものなどないーー、と笑顔でいえるエネルギーに周囲の誰もが圧倒され、その姿から元気をもらったに違いない。
「辛いときこそ自分らしい生き方を貫き、一瞬一瞬を楽しんでこそ、豊かな人生といえる」
今泉さんは命と向き合いながら、そう考えて前を向いた。
困難を乗り越える強い力
レジリエンスを高めてしなやかに生きる
今泉さんが、自分の生命力とまっすぐ向き合うようになったのは、N.Y.に住む米国人女性のキャリアコーチとZOOMによる13カ月間のリーダーシップコーチングの影響も大きい。コーチングの学びの中で、“レジリエンス”を高めることの大切さに気づいたという。レジリエンスとは、直訳すると、“復元力”とか“回復力”といった意味だが、「困難なことを辛抱強く、しなやかに乗り越える力」と今泉さんは捉えている。
「たとえば、何か難題に直面したとき、「なんで私だけ」、「もう最悪!」といった気持ちになってしまうかもしれないけれど、そんなときこそ冷静に、自分のリアクションの仕方を自分で選択することが大切です。辛い状況にあるときに、目の前のことに捉われてばかりいてはダメージから回復することはできません」
困難に出くわしても、「これは素晴らしい学びのチャンスだ」、「今は辛いけれど、ありがたいことなんだ」とポジティブな方向に発想を変換することでマインドセットは変わるという。マインドセットが変われば人生も好転する。辛いことが起きたとき、その全てを教訓として捉えることができれば、心は自然とその困難を受け止め、強くしなやかに生き抜く術を身につけることができるのだ。
「それは、私がプライベートジェットCAとして出会ってきた多くの成功者たちにも通じるマインドセットです」
お客様がハッピーな気持ちで階段を登り降りできるようにと願い、搭乗前には手すりと階段をピカピカに磨く
世界でわずか0.2%の富裕層とともに、今回もまた新しい空の旅が始まる
「私自身、最初は自分のアイデンティティさえ見失いそうな弱々しい気持ちからコーチングの講義をスタートしたのですが、今では“辛い経験したからこそ、他の人の辛い気持ちが理解できるようになった”と、考えられるようになりました。乳がんを患い、女性性がすごく傷ついたという見方もできるけれど、あんなに辛い時期を乗り越えたんだ、という私自身の強さを見出すことができたのです」
2021年、現役プライベートジェットCAとして空を飛びながら、ホスピタリティ・コンサルタントとして起業したのも、乳がんの告知を受けたことがきっかけだ。「健康は当たり前のものではない」と認識するようになって、彼女のそれまでの考え方が一変したという。
「あの経験がなければ、今の私はここにいなかったかもしれません」
起業後に行ったインターナショナルスクールでのキャリアトークイベントでは英語で登壇
“自分へのホスピタリティ”で内側から輝きを放つ
ヨガ再開を記念してフォトグラファーの友人に撮影してもらった写真。2019年3月、バリにて
「ホスピタリティ・コンサルタントとして起業し、多くの方々にアドバイスをさせていただく時間はとても充実しています。私自身、今はまだ新米経営者なので、仕事をしようと思ったら1日中延々と働けてしまいますが、あえて自分をいたわる時間を大事にしたいと思っているんです。気がついたら身も心も疲れ果ててぐったり…、ということにならないように、ものごとの優先順位をよく考えて自分をメンテナンスする時間を確保するように意識しています」
たとえば鍼灸やボディマッサージをしてもらいに行ったり、仕事の合間にホテルに泊まるときなどには、バスタブにお湯を溜め、好きな音楽を聴いたりしながらゆっくりお湯に浸かる。ヨガやストレッチも効果的な気分転換のひとつなのだとか。体のケアだけでなく、心身ともにリラックスしながら自分をねぎらう時間は、彼女にとって最高にラグジュアリーなひとときだ。
自分をいたわるということは、自分を過小評価して頑張りすぎないことでもある。
「新人CAの育成プロジェクトの中でもよくいっているのが、今日のフライトが20点だったとしても“20点ももらった!”という気持ちで自分を評価してあげてほしい、ということ。とくに日本人の女性は頑張り屋さんが多いので、100点に対してのマイナスだけを見て、“これじゃダメだ”とか“もっと頑張らなくちゃ”と自分を追い込んでしまうということが多いように感じます。それはCAに限らずどのような仕事にも共通しています。減点方式じゃなく、0からの加点方式で自分を褒めてあげましょう」
満点を取れるジャンルは誰にでも必ずあるもの。肩の力を抜き、心を緩めることで、気づかなかった本当の自分らしさや「進むべき道」が見えてくることもあるという。
空の上はいつも快晴。曇り空や雨空のずっと上には澄んだ青空が広がっている
10年後の目標について今泉さんに伺ってみた。
「とにかく健康であること、そしてハッピーで楽しく生きているというのが私の目標です。体も心も健康であってこそ、お仕事のご縁もつながっていくもの。そして10年後には、世界基準のホスピタリティを語るなら“グランジュテ”。そう言っていただける存在になれるよう、今はこれまでの経験から得た学びをどんどん発信していきたいと考えています」
“グランジュテ”とは、バレエの「大開脚ジャンプ」を意味するフランス語。タイミングよく、高くジャンプをすることで、今見えている景色とはまた違った世界が目の前に拓けてくると今泉さんはいう。 そこにはきっと、今泉さんが何度となく垣間見てきた「世界のトップ0.2%未満の超富裕層だけが見ることのできる景色」が広がっているに違いない。
「辛い離婚を経験したシングルマザーで乳がんサバイバーであっても、自分の力を信じ、新しいキャリアに向かって10年先も20年先も飛躍し続けていたい。そんな私の生き方が、ひとりでも多くの方に勇気と元気を与えることができたら良いなと願っています」
“What Will You Live With In Your Hands?” 今泉麻衣子さんのJUSTナチュラル
エルメスのスカーフ
ある朝突然、心臓発作で夫を亡くした母方の祖母が、晩年にフランス旅行で購入したエルメスのスカーフ。 “Carpe Diem”(「その日を摘め」、「その日を生きろ」)と訳される言葉を、祖母はどんな気持ちで眺め、身につけたのだろうか。私が乳がんと戦うことは、祖母が愛するひとを突然失った悲しみに比べたらなんてことない。辛い出来事を乗り越えてフライトする今、このスカーフは「より良い今日」をつくるための“お守り”です。
娘
反抗期を迎え、生意気で大変な時期。子育ては辛いことも多いけれど、母と娘はやはり特別な関係。そして、娘のお手本のような存在になりたい、という思いが私の中にはあります。地道に学び続けること、ひたすら実直に、嘘をつかず自分に正直に生きていく背中を見ていてほしい。大切なのは、私自身が「娘のため」に生きるのではなく「自分のために」生きることなのかもしれません。ときどき私にひどく毒づいて、心が折れそうになることもあるけれど、“今のままで大好きだよ”。そう心の中で呟きながら成長を見守る日々。私にとってかけがえのない存在です。
空
子供の頃から空を見るのが好きでした。朝焼け、夕空、満天の星空・・・。見上げると、そこにはいつも違う表情の空があって、どこかより高いところにつながっていけるような、ありがたい思いが込み上げてきます。CAになり、フライト中に見る空もとても感動的。地上がどんなにひどい土砂降りでも、上空はいつも快晴で清々しい。今まで何度も繰り返し見てきたのに、空を見るといつも感動と感謝でいっぱいになります。「しんどいことがあっても、乗り越えた先には素晴らしい世界が待っている」。 空からいろいろなことを学びました。
2024年4月、午後5時過ぎの美しすぎる夕焼け空
2016年、アメリカ東海岸をフライト中の朝焼け。『グランジュテ・インスティテュート』の研修プログラムの表紙にも空を使っている
〜インタビューを終えて〜
自分らしくあるために、幸せを実感しながら多面的な視野をもって強く生きるその姿には、イラリがテーマとする、「キャリア+健康美+ラグジュアリー」のヒントとなる“真の知性”が感じられました。そして、宮城から東京へ、N.Y.やホノルルへ、パリやフィレンツエへも、まるで地続きの道であるかのように大地をしなやかに超えていく行動力。過去、現在、未来へと一直線につながっていく今泉さんの世界は、これから先もまだまだ輝きを放っていく予感に満ちています。
取材・文 山田ふみ
今泉麻衣子さん(MAIKO IMAIZUMI)
/プライベートジェット
CA/ホスピタリティ・コンサルタント
プロフィール:
日本におけるプライベートジェット業界の第一人者。現役でフライト乗務するCAでは最も長いキャリアを持ち、世界83ヵ国500都市以上を訪れる。世界のVVIP (皇族・王族、実業家、政治リーダー、ハリウッド俳優など) のフライトを担当し、高評価を得ている。日本語と英語の他にフランス語、スペイン語、北京語を使い機内サービスができる。
若手CAの雇用・訓練・育成プロジェクトを引率する経験を元に、人財育成の大切さを実感して、2023年に株式会社グランジュテ・インスティテュート(https://www.grandjete.institute)を法人登記。現在もプライベートジェットでのフライト乗務をしながら、企業研修や講演活動を行っている。
著書『世界基準のホスピタリティ』はAmazonにて好評発売中。
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