嬉しい時も、ときめく時も、辛い時も、悲しい時も⋯⋯⋯。いつも音楽は、人の心に触れ、
寄り添い、潤いをもたらす。私にとって音楽は丸で血液のようだ。音楽と共に素敵な生活を。

Vol.7 世界一好きなホテルで絶妙な音楽を。Byヒコ・ウォーケン

2025年8月27日

 人生と共に旅がある。仕事もプライベートも随分と旅を重ねてきた。最も回数的に多いNew York、パリもアフリカも。旅といえばホテルの居心地は欠かせない。

 私のベスト1は、タイ・Bangkokのマンダリン・オリエンタルである。歴史と風格のあるコロニアルの建物が凛とした気品を薫らせている。だが、一歩中に入れば、ホスピタリティのある優しい笑顔の応対が待っているのだ。

 旅好きな私はいつも部屋に入った時は隅々までチェックする。座り心地の良いソファー、テーブルの上にはフルーツバスケットが待っている。一番感動するのはバスルームの広さだ。ビジネスホテルならほぼ一部屋分のスペースがある。

 私が感動したのはクローゼット・ルームである。小さなひと部屋分のスペースに、両サイド、つき当たりにハンガーがあり、女性のためのジュエリーやアクセを収容できる大きなケースが設置されている。ドレス・コードのマナーを要されるホテルだから、1カ月滞在する前提の様なクローゼットルームである。そうか、そういう客層のためのホテルだと改めて思わせる雰囲気がある。

 窓を開けるとゆったりと流れるチャオプラヤ川が目に優しい。この大河は歴史的にBangkokの繁栄を築いてきた。時の重さを今に継ぐ雄大な川である。川を行き交う物流の船、観光用の飾りの付いた船が目に入る。この部屋に入るだけでノスタルジイックな雰囲気が宿ってくる。

 先ずこのゆったりとする時間の流れが、私のマンダリン・オリエンタル好きを増幅させるのだ。

 私が好きなオーサーズラウンジのアフターヌウーンテイの飲みもの、ジャスミンティーは『ジャスミン・クイーン・テイ』という名称だった。口に優しく、あと味もなぜか品のある美味しさである。白いコロニアルな椅子にもたれながら過ごす時間は私にとって最も至福な時間である。

 さて音楽の話しである。チャオプラヤー川のリバーサイドにロードジムというレストランがある。ここは最もBangkokらしい光景を誇るレストランだ。大好きなフォアグラのソテイーやシーフードの多彩な料理を選べる。
 私はクローゼットからベージュの麻のジャケット、サックス・ブルーのシャツに薄いピンクのタイを選び、ロードジムに向かう。食事が済んでコーヒーをオーダーするとウエイターは微笑と共にテーブルに運んでくる。そこでバッグからヘッドフォンを取り出し聴く曲は決まっている。松尾 明トリオ・フィーチャリング西田 幹の『ルンバ・デ・カフォン』である。キューバのトロンボーン奏者、ファン・バブロ・トーレスが作曲したラテンの名曲。松尾 明は言うまでもなく都会的センス溢れる名ドラマーの一番手。寺村容子の重く響くピアノ、低く強くうねる嶌田憲二のベース。この本格的かつ絶妙なトリオに西田 幹のベーストロンボーンが加わっての名演である。

 ベーストロンボーンは交響楽の縁の下の力持ち的役割りが多く、ソロを取るのは極めて稀少なケースである。しかも原曲よりもスローテンポにアレンジし、悠久の美さえも感じさせる仕上がりなのだ。この低く重く雄大なベーストロンボーンのメロディーを、繊細なタッチで刻む松尾 明のリズムが凄い。

 私にとって、ゆったりと時を運ぶように流れるチャオプラヤー川を眺めながらコーヒーを啜り聴くJAZZは、一択でこの曲しかない。至福の極まりと言っても過言ではない。

 皆さんもぜひリバーサイドテラスで試して欲しい音楽体験である。

 Bangkokは今、ファッション誌の特集を競うトレンド・コンテンツになっている。超現代的なビル群、New Yorkに勝るとも劣らないファッション・ビル、ルーフトップ・バー、アートなギャラリーと工芸、絶妙なグルメ、リノベ・ショップ、世界最前線のハイクオリティ・コーヒー、レコードバー⋯⋯⋯その対極にあるノスタルジィックな王宮周辺。この新旧を同時に楽しめる、バック・ツー・ザ・フューチャーを体感する街。

 ここにTOKYO JAZZ、とりわけノスタルジックを超都会風に仕上げる松尾 明の絶妙なセンスがピッタリ融合する。

★ルンバ・デ・カフォン』は、AKIRA MATSUO TRIO Besame Mucho のアルバムに収録されている。ご参考まで。


ヒコ・ウォーケン(YASUHIKO TAKAHASHI)

ライフスタイル デザイナー

プロフィール:
ファッション、流通マーケティング分析、企画、音楽プロデュース、映像、販促、メデイア情報、講演を駆使し、ライフ・スタイルデザインを軸に多くの企業コンサルティングに携わっている。独自の感性、レーダー力、分析力で唯一無二のビジネスに定評が集まる。特に自らの持論である『文化情報経済』は常に時代を先取し、ビジネス・トレンドを創造し続け、今にある。現在は日本版【クオリティー・オブ・ライフ】の創造発信と体験型ライフデザインに力を注ぎ、精度の高い時間創造を提起している。
マデイソンコンサルティング創業者。