INTRODUCTION

星に夢中になり始めたのは14歳のころ、当時(1980年)手描きで作成したホロスコープを眺めては、惑星が示す意味と同時代の出来事との共時性にワクワクしていたのを覚えています。
そのときの天体配置で特に印象的だったのは土星と木星が共に乙女座から天秤座に移動して約600年ぶりに風のエレメントに集っていたこと。
いまでは多くの人が耳にする「風の時代」へのストロークを感じながら未来の私らしい在り方を模索していました。
そこから半世紀近い月日を経た現在、新しい時代の到来は外からもたらされる以上に、個々の内なる気づきと豊かな繋がりから拡がっていくのだと実感しています。
この連載では、惑星たちが奏でる二十四節気ごとの天体配置から、より魅力的で私らしい暮らしを楽しむための星々の語らいをお伝えしていきます。

小満・双子座の季節(21 May)

2025年5月20日

風が変わる
色彩の粒がやさしく揺れ
草木はしだいに空へとひらかれ
小さないのちたちの気配が
見えない線を描きはじめる

5月下旬、太陽が牡牛座から双子座へと歩みを進める頃、
わたしたちは季節の節目「小満」を迎えます。
万物がしだいに“満ちてゆく”とき、光に向かって草木は背を伸ばし、
種は芽吹き、若葉はその手を空に差し出す。
この頃の空気には、“ふくらみ”があります。
湿り気を帯びながらも、まだ真夏の重たさには遠く、
どこか透明な知性のようにさらりと風に舞ってくる。

双子座と水星のリズム

双子座を司る水星(Mercury)は、知恵と機転の神。
神々と人間の世界を行き来する、自由な伝令者。

占星術では、水星は7歳から14歳の年齢域を司ります。
子どもたちが「ことば」を通して世界をとらえはじめ、
好奇心と軽やかさに満ちた日々を生きる時期。
学校へ通い、友と笑い、自然に触れ、質問を繰り返しながら
地図にない世界を見つけようとする。

それはまさに、“センス・オブ・ワンダー”が
最もみずみずしく息づいている純粋な時間です。

知識の量ではなく、知ることそのものへの歓び。
双子座の風は、そんな感性を私たちのなかに呼び起こします。
内なる“小さき探求者”が目を覚まし、新しい言葉や世界と出会おうとする。

レイチェル・カーソンの問いかけ

自然とともに生きた詩人、レイチェル・カーソン。
彼女の著書『センス・オブ・ワンダー』には、こんな一節があります。

子どもたちの世界は
いつも生き生きとして新鮮で美しく
驚きと感激にみちあふれています
残念なことに大人になる前に
その感性をにぶらせてしまうことが多いのです
もしもわたしが
すべての子どもの成長を見守る
善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら
世界中の子どもたちに
生涯消えることのない“センス・オブ・ワンダー”を
授けてほしいとたのむでしょう

カーソンが語るように、知識を教える前に大切なのは「感動する心」。
それがあれば、知識はあとからついてくる。
風景のなかに息づく“何か”に気づく力。
それこそが双子座が本来持っている、軽やかで、そしてとても敏感な知性です。

太陽 双子座 イングレス

この瞬間のホロスコープには、
いくつかの印象的な配置があります。
牡牛座に位置する水星と天王星が、
双子座の太陽に導かれるように第1ハウスでステリウムを形成。
また、逆行を始めた冥王星が水瓶座MCにカルミネートし、
太陽と調和的なトラインを結んでいます。

星々の響きは、加速度を増すAIの進歩や
情報の洪水にただ飲み込まれるのではなく、
「自らの感性で世界を語り直すこと」について
後押しているようです。

魚座の土星と牡羊座の海王星は
金星やキロンと共に12ハウスに!
牡牛座の天王星と双子座の太陽にセクスタイル。

未来から流れ込んでくる新しいビジョンと
これまで馴染んできた世界に橋をかけるように、
まだ言葉にならない想いを静かに確認し、言語化を試みるタイミングです。

詩的に問い、生きる

小満の名のとおり、
この季節は「これから満ちてゆくもの」をそっと抱きしめるタイミング。
夜空の星に気づいた瞬間に 胸の奥に灯る感動、雨のにおいに漂う懐かしさ、
それら 小さな気づきの ひとつひとつが、双子座の風を通して 問いかけてきます。

ただ多く知ることよりも、急いで答えを出すことよりも、
風に耳を澄ますようなまなざしを取り戻すこと。

双子座は、情報社会のなかで疲れた私たちに、
“初めて世界を見る目”を思い出させてくれる星座。

それは「意味を超えて、感じる」ための贈りものです。

星々の語らいに導かれて、
ほんの少し立ち止まり、自分の“今”を新しい目で見つめてみる。
この季節、あなたはどんな“小さなワンダー”に出会うでしょうか。

今年の双子座の季節、レイチェル・カーソンのように
センス・オブ・ワンダーの感性を迎えてみてはいかがでしょうか。


イズモアリタ(MASAFUMI ARITA)

星の神話とタロットの図象
/伝承叡智の研究
テキスタイル&グラフィック
/デザイナー

プロフィール:
星とタロットの図案家として 未発掘の心象シンボルと無意識の同時代カルチャーをスケッチしている。2004年より世田谷ものづくり学校にアトリエを構え、コンバースシューズやヤコブセンのチェアをはじめ、BEAMS、IDEE、CIBONE、サザビー、ほぼ日、JTB、伊勢丹BPQC、高島屋、等で様々なプロダクトを発表してきた。近年は、独自の縄文&出雲的な感性と星々との呼応から制作活動を展開。古代の伝承から同時代のものまで古今東西の文化に詳しく、ゼロ歳からのワークショップ、美術大学で造型指導も行っている。

イズモアリタ instagram
@izumoarita