Vol.4 ワインの原料は葡萄だけ
ナチュラルワインを造るために最も大切な工程、葡萄の栽培についてお話しします。
なぜ大切なのかというと、ワインの原料は葡萄だけだからです。
日本酒は米と米麹と水。ビールは麦芽とホップと水。同じ醸造酒でもワインは葡萄だけあれば造ることが出来ます。水も必要ありません。
上質な葡萄を手に入れることが、美味しいワインを造るための第一歩となります。
「ワイン造りの98%は畑にある。」と言い切るワインの造り手もいるくらいです。
ちょっと前のフランスの話。
1960年代に大型スーパーマーケットが現れ始めました。お店の特売品として目が付けられたのがワイン。低価格、大量生産ワインの需要が拡大しました。
効率的に大量の葡萄を安価に手に入れるため、本来3日間掛かる農作業をたった数時間で終わらせることができる除草剤や殺虫剤が多用されるようになっていきます。
葡萄畑の微生物や虫、ミミズなどは姿を消し、土壌と葡萄の樹は弱体化。それを補うため化学肥料を多用。
収穫量は確保できるものの、それを繰り返しているうちに葡萄の樹は益々元気を失っていきました。
影響はそれだけではありません。化学農薬の多用で葡萄畑に存在する天然酵母が死滅。収穫した葡萄を仕込んでも一向に発酵が始まりません。
それでもテクニックを駆使して造る大量生産ワインの時代は続きます。
一方、それに疑問を感じて昔ながらの農業を続ける農家がいたのも事実です。
上質な葡萄を実らせるためには、化学農薬に頼ることなく育てられた健康な葡萄の樹が不可欠です。
健康な葡萄の樹は地中深く根を伸ばし、その土壌の個性を根から吸収し果実に反映します。その結果、凝縮した果実味、酸、ミネラルなどが詰まった上質な葡萄が実るのです。
しかし、化学農薬に頼らず手間暇掛けても葡萄の収穫量や熟度などは毎年異なります。
生産者はそれをよく理解し、工夫しながら健全で美味しいワインを造ろうと努力します。
上質な葡萄のみを使い、その年の個性をワインに表現することにこそ価値があると考えています。
ワインはほぼ農作物。毎年風味が違って当たり前です。
一方、化学農薬が多量にまかれた畑の葡萄は健康な状態とは言えません。
その表土近くにある化学肥料を求めて根を横に伸ばします。土壌の個性などは表現されませんが、低コストで大量の果実を得ることが出来ます。
その果汁に添加物を加え、均一的な風味のワインを大量生産します。
こういう葡萄で造られたワインは、美味しく出来ても自然な味わいのワインとは違う気がします。
7月、ワイン造りを始めた友人の葡萄畑に行ってきました。
摘芯、敵房作業の説明を受け、2時間足らずハサミでチョキチョキしたところでギブアップ。
全く進んだ感じがせず、気が遠くなるほどの膨大な作業量を残し退散しました。
その時々に行いたい農作業を終えることができなくても、葡萄の樹は成長を待ってくれません。
そうこうしている内に、また新たにしなければならない農作業が次々と出てきます。化学農薬に頼らず手作業ですべてやるのか。
どんなワインを造りたいのか。
理想と現実のギャップを受け入れ、前に進むしかありません。
「ワイン造りの98%は畑にある。」
上質な葡萄を実らせるにはやはり化学農薬に頼ることなく丁寧な農作業を積み重ねていくことが大切なのです。
次回は、自然な発酵や熟成など、ナチュラルワインの醸造について解説します。お楽しみに!
丸山謙二さん(KENJI MARUYAMA)
有限会社みどりや酒店代表取締役
プロフィール:
大学卒業後、建設工事の現場監督を経て、家業の有限会社みどりや酒店に入社。三代目社長。
(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
ショップでのワイン販売、飲食店のワインリスト提案、ワインセミナー講師、たまに配達、そのほか、生産地に脚を運び自ら買い付けるワイン人。
自然派ワインを広めるべくワイン関連の様々なイベントを企画、開催。異業種とのコラボレーションなどにも積極的に携わる。美味しいものを食べて、ワインとの相性を試したり、想像したりすることが大好きなおじさんだが、最近体脂肪率が気になり筋トレを続けている。
ロワールワイン ワインアドバイザーコンクール全国第3位。みどりや和飲学園園長。
自然派ワインで世界平和!を願う、やぎ座のAB型。子年。