Vol.7 酸化防止剤を理解する
酸化防止剤無添加にこだわる自然派ワインが存在するのに対して、一般的なワイン造りにはなぜ酸化防止剤が必要なのか。
今回は、代表的な酸化防止剤である二酸化硫黄(SO2)について正しく知って頂けるように解説していきます。聞きなれない言葉や、難解なメカニズムなどが出てきますが、是非最後までお付き合いください。
酸化防止剤〔二酸化硫黄(SO2)〕とは。
二酸化硫黄(SO2)は、硫黄が燃焼する際に発生するガス(気体)です。古くはローマ時代から酸化防止効果などがあるとして、気体の状態でワイン造りに使用されてきました。
現在は取り扱いがしやすいように、二酸化硫黄(SO2)を水に溶かした亜硫酸(液体)が主に使用されています。ワインボトルの裏ラベルなどに表記される添加物に「酸化防止剤(亜硫酸塩)」と表示される場合が多いようです。
日本の食品衛生法上では、総亜硫酸量はワイン 1 キログラム(約 1 リットル)あたり 350 mg未満という規定があります。アルコール発酵中に自然発生する亜硫酸を含んだ数字です。
亜硫酸を添加しなくても、ほとんどのワインが少量の亜硫酸を含んでいるのも事実です。
酸化防止剤の効果。
一般的なワイン造りにおいて、酸化防止剤として添加される亜硫酸は、主に以下の 3つの効果があります。
①酸化防止効果&酸化したワインを回復させる効果
ワインの酸化の主な原因であるワイン中の酸素と結びついて、文字通り酸化を防止します。
また、アルコールが酸化して発生するアセトアルデヒドと結びついて、ワインの風味を回復させる効果があります。
②抗菌効果
酵母や細菌の活動や生育を抑える効果があります。十分な濃度があれば、これらを死滅させることもできます。ワインを造る上での細菌汚染の対策に有効です。
③果皮成分抽出促進効果
果皮からのアントシアニン(ポリフェノールの一種)の抽出を促進する効果があります。色濃く凝縮感のあるワインに仕上げることが出来ます。
亜硫酸は安全なの?
亜硫酸は規定値以内であれば、ほとんどの人にとって害がないとされていますが、気体である二酸化硫黄を吸い込んだ場合、呼吸器に影響があります。喘息やアレルギーがある人の場合、発作を引き起こす可能性もあるそうです。
しかしワイン好きとしては怖がってばかりではいけません。もう少し踏み込んで解説します。
亜硫酸には、酸化の原因であるワイン中の酸素やアセトアルデヒドなどと結びついた結合型亜硫酸と、これから結びつこうとしている遊離型亜硫酸があります。遊離型が酸化防止効果を発揮し、時間が経つにつれて結合型に変化していきます。結合型は害がないと言われています。
少し前になりますが、バケツに入った亜硫酸を直接嗅ぐ機会がありました。強い刺激にむせ返ってしまったことをよく憶えています。
健全で美味しいワインが造れるのであれば、亜硫酸を添加したくないのが正直な気持ちです。
〈醸造タンクに亜硫酸を投入する若かりし頃の筆者。〉
頭痛の原因は酸化防止剤ではない!?
「他のお酒は大丈夫なのに、ワインを飲むと頭痛がする。酸化防止剤の仕業に違いない。」とお客様から言われることがあります。醸造タンクに亜硫酸を投入していた頃の私もそう思っていました(笑)
現在、ワインの飲酒による頭痛の原因は酸化防止剤ではなく、別の物質であることが特定されています。チラミンという物質です。
チラミンは、ワインのアルコール発酵後に、乳酸菌によって進むマロラクティック発酵中に生成されます。血管の収縮作用などを有することから片頭痛の原因になると言われていますが、その影響には個人差があるようです。
チラミン生成のメカニズムが解明され、チラミンを生成しない乳酸菌を選択することで頭痛を起こしにくいワインを造ることも可能になりました。
また、血管の拡張作用を有するヒスタミンという物質も生成されますが、含有量が少ないため影響がないとされています。
酸化防止剤無添加ワイン
〈ラベルに「sans sulfites ajoutés」と表記。酸化防止剤を一切添加していないことを意味します。〉
酸化防止剤に頼らずより自然なアプローチで美味しいワインを造るにはどうしたらよいでしょうか。
葡萄を発酵タンクに仕込む際、腐敗果などをしっかり取り除き、すべてが健全な果実でなければいけません。また、再発酵や変質が起こらないように、流通や保存において温度管理が不可欠です。
無添加での醸造は、雑菌の繁殖や酸化のリスクが高くワインの変質にも繋がります。
無添加にこだわり過ぎて欠陥ワインになるくらいなら添加した方が良いですし、少量添加しても葡萄本来の自然な風味を損なわないと私は考えています。
次回は、ワインの熟成、保存、飲み頃などをテーマに解説します。お楽しみに!
(参考文献)
清水健一. 『科学者が書いたワインの秘密身体に優しいワイン学』. PHP 文庫, 2016.
国税庁. 「酒類製造における亜硫酸の適正使用について」. 国税庁ホームページ.
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/anzen/pdf/01_1_1.pdf (2024 年 12 月 9 日アクセス)

丸山謙二さん(KENJI MARUYAMA)
有限会社みどりや酒店代表取締役
プロフィール:
大学卒業後、建設工事の現場監督を経て、家業の有限会社みどりや酒店に入社。三代目社長。
(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
ショップでのワイン販売、飲食店のワインリスト提案、ワインセミナー講師、たまに配達、そのほか、生産地に脚を運び自ら買い付けるワイン人。
自然派ワインを広めるべくワイン関連の様々なイベントを企画、開催。異業種とのコラボレーションなどにも積極的に携わる。美味しいものを食べて、ワインとの相性を試したり、想像したりすることが大好きなおじさんだが、最近体脂肪率が気になり筋トレを続けている。
ロワールワイン ワインアドバイザーコンクール全国第3位。みどりや和飲学園園長。
自然派ワインで世界平和!を願う、やぎ座のAB型。子年。