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世界のVIPたちを魅了するプライベートジェットCAに学ぶ 「最上級のおもてなし術」―前編―真のホスピタリティとは
Vol.1 今泉麻衣子さん
普段なかなか知ることのないプライベートジェットの世界。覗いてみたい、と思うひとも多いのでは?
そのCAとして、2006年からVVIP(Very Very Important Person)と称される国際的な超富裕層とともにフライトを続けてきた今泉麻衣子さん。 地球上を縦横無尽に飛び回りながら、皇族・王族、実業家、政治リーダー、ハリウッド俳優など、 「世界のトップ0.2%未満の超富裕層だけが見ることのできる景色」を垣間見てきた空の旅のスペシャリストでもある。
英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、北京語など5ヵ国語以上を話すマルチリンガル。
記念すべきイラリ創刊号の第一回目は、現役プライベートジェットのトップCAとして活躍され、 2022年にはホスピタリティ・コンサルタントとして新たなキャリアを切り拓いた今泉さんのライフストーリーを前編・後編に分けてお届けします。
運行会社や持ち主によっても内装が異なるプラーベートジェット。その外観もラグジュアリー
CONTENTS
時価120億円超!超ラグジュアリーな機内で
現役トップCAが実践する“最上級のおもてなし”とは?
世界を飛び回る富裕層たちが移動手段に手放せないツール。それがプライベートジェット。
メジャーリーグで活躍している某野球選手がチャーター機で日本に帰国し、自身のインスタグラムに機体の写真を公開したことでも話題になった。
「彼が乗って来たのはボンバルディア社の『グローバル7500』というジェット機で、私が頻繁に乗務させて頂く飛行機と同型機です」(今泉さん)
“世界でもっとも豪華なジェット機”と称されたこともあるこのモデル、機内は4つのエリアに分かれ、ゆったりとした対面式の革張りシートとテーブルのエリア、 食事用エリア、ベッドルームと化粧室、そして中央にはソファや大型テレビなどが備わったリビングエリアがあるのだとか。
各エリアはボタン式の自動ドアで仕切られ、機内全域にWi-Fiも完備。
まるで高級ホテルのスイートルームに泊まっているかのような感覚で空の旅が楽しめるというわけ。
気になるチャーター料金は、渡航先や滞在日数によっても変わるが、日本とアメリカ本土を往復すると4000〜6000万円程度。 また、航空ニュースwebサイトの大手『Simple Flying』※によると、2023年の販売価格は約7800万ドル(時価にして約120億円!)。 維持費だけでも日本円換算で年間数億円かかるともいわれている。
しかも、同機のように長距離飛行が可能な大型機は日本ではわずか20〜30機ほど。そんなレアなジェット機に搭乗するのが、 皇族・王族、実業家、政治リーダー、ハリウッド俳優、スポーツ選手など、世界でわずか0.2%未満といわれる大富豪なのだ。
名だたるVVIPたちに、18年半も選ばれ続けてきたプライベートジェット専用CAの今泉さん。現役として日本でもっとも長い経歴をもつといわれる第一人者だ。
誰もが知る世界の富裕層、ビリオネアたちを、今泉さんはどのような接遇で出迎えてきたのだろうか。
「飛行機オタク」を自称するほど航空マニアの今泉さん。アサインされた瞬間から、CAの仕事がはじまる
※参考:Simple Flying
https://simpleflying.com/bombardier-global-7500-price-2024/
すべてのモノ・サービスに“共感ストーリー”がある
それが世界のVIPたちを魅了する真のホスピタリティ
「プライベートジェットのCAとはどのような仕事なの?と興味をもってくださる方もいらっしゃるかもしれません。 一言でいうと、VVIPのお客様に“極上のサービスを提供するフライトに乗務する仕事”ですが、実のところ、“私の職務内容はこれです!”といったマニュアルもなければ制限もありません」
クラスごとに細かな接客マニュアルがある航空会社のフライトとは異なり、オンデマンドな旅が叶うのがプライベートジェット。 乗務するCAは当然、食事や飲み物のサービスをするだけにとどまらない。
「たとえば小さなお子様が搭乗されたときには、ご両親が落ちついてお食事ができるようお子様と本を読んだり、年齢によってはUNOなどカードゲームをして遊んだり。 飛行機の中で一緒にクッキーを焼いたりすることもあります」
その時々のゲストに合わせ、考えられるもの全てを毎回のフライトごとに今泉さん自身が用意する。 シワひとつないベッドリネンや肌触りの良いブランケット、同伴者に小さな子供がいれば、子供の年齢に合った歯ブラシ、絵本やおもちゃ、おやつなどを買いに行ったり手配したりするという。
「アサインされた瞬間から、どんなフライトにしたら良いかな?と想像力を働かせるのは楽しいもの。毎回ワクワクしますね」
機内に装備するアイテムは、顧客の職業や価値観などに合わせて丁寧にセレクトする。ただ単に高価なものや一流ブランドのものを提供すれば良いわけではないようだ。
「5つ星ホテルで使っているから、とか、有名ブランドのものだから安心、という姿勢でお客様にご提供するのでは想像力に欠けます。 たとえばスリッパであれば、丁寧に作られていてお客様の足のサイズに合った履き心地の良いものが一番ですし、なぜこれを提供しているのか、 全ての選択に説明がつくよう当事者意識をもつことが大切だと思っています。
機内にご用意するアメニティひとつ、ナプキン1枚、本1冊にしてもセンスが問われるのが私たちの仕事です」
使い勝手の良さやデザイン性はもちろん、モノやサービスの背景にある”ストーリー”を大事にしたいという。 ひとは共感できるストーリーに心惹かれ、愛着を形成する。そこにこそ「本物の価値が宿る」と今泉さんは考えている。
テーブルや化粧室などに配置された季節の花々に、ゲストの趣味嗜好がさりげなく反映されていたり、スナックパックの中に、 それとはなしに好みのヘルシースナックが用意されていたり。機内のあちこちに、大切な方々がふと笑顔になるような、今泉さんならではの小さな心配りが散りばめられている。
「細やかに気を遣うけれど、誰に気づかれなくても良いことばかり。私なりに、真っ直ぐな心でお客様をお迎えしたいという気持ちで実行しています」
高価でなくても、派手でなくても良い。ほんの小さなプラスアルファが機内の安心感を醸し出し、ゲストたちの旅の思い出がひとつ、ふたつと増えていく
機内で提供する食事は前菜からデザートまで今泉さんが準備。日頃から国内外のさまざまなレストランを訪ね、その盛り付けなどからインスピレーションを得ているそう
決して押し付けることのない穏やかな気遣いが旅人の緊張感を解きほぐし、ゲスト全員の心に「良い旅だった」というほのかな余韻を残す。
「やらなくても良いけれど、やったら喜んでもらえるかもしれないこと」に心を向ける。乗務マニュアルはないけれど、あらゆる可能性の2歩も3歩も先を見越しての準備を怠らない。 これが彼女なりの仕事との向き合い方。トップCAとして世界中のVVIPたちを魅了し、18年半も選ばれ続けてきた理由がそこにある。
「CAの仕事は黒子に徹することですが、“次の旅も任せたい”、“専属になってほしい”。お客様にそう言っていただけるのは本当にありがたいことです」
勤務パターンというものが存在しないプライベートジェットCAの仕事。その中で、 “今、私が真っ先にすべきことはこれ”といった物事の“真髄”を一瞬で掴む経験をたくさんしてきたという
5ヵ国語を自在に操る唯一無二のプライベートジェットCA
今泉さんが長年選ばれ続けてきた理由は、他にもある。プライベートジェットは外国籍のゲストも多い。 できるだけ多くの言語を理解したいという気持ちから、英語に加え、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、北京語を話す自称「言語オタク」。
幼少期から語学に興味があり、言語を覚えることが苦ではなかったそうだ。今も隙間時間にスマホの翻訳アプリなどを利用して、継続的に学習するようにしている努力家でもある。
また、航空会社のCAとは違って今泉さんの業務には当然ながらスケジュール・チェンジも頻繁にある。 「明日シアトルに行くつもりだったけれど、やっぱりフランスに行きます」と急遽行き先が変更になったり、 夜中にいきなり電話で「明日の朝11時に出発の飛行機に乗って!」と打診されたりしたこともありました。
仙台に住んでいる上、シングルマザーとして一人で娘を育てているので、急いで母や姉に電話をして娘の託し先を確保し3、4時間寝て成田に向かうという形になりました。
プライベートジェットCAの仕事には勤務パターンというものが存在しないけれど、何かあったときに効率よく、しかも正確に、 “今、私が真っ先にすべきことはこれ”といった物事の“真髄”を一瞬で掴む経験をたくさんしてきた気がします」
優先順位を瞬時に判断すること、最上級のサービスを臨機応変に提供できるフレキシビリティがとても大事だと語る彼女には、どんなことがあっても、 体ひとつでどこに送り込まれても、本気で“私に任せてください!”といえる覚悟がある。
それは、圧倒的な経験値からくる自信、母親としての大きな優しさ、周囲を包み込むような安心感と、それらの全てを世界のVVIPたちに笑顔で伝える言語力のなせる技。
プライベートジェットのCAとは肉体も精神も、本当に強くなければできない仕事なのだ。
世界のVVIPから学んだ共通点と
「選ばれるひと」になるために私たちができることとは?
役職や肩書を見るのではなく、エゴを捨てて人間同士の心の根底にある真の優しさでつながっていくことが大切
「プライベートジェットのCAとして、普段の生活ではお目にかかることのないような方々を機内にお迎えし、そのご家族やご友人とともに、閉ざされた空間で密な時間をご一緒させていただく多くの機会に恵まれました。
そして、一流と呼ばれる方々には共通点があることにも気づきました。それは“心が強い”こと。
政財界、スポーツ界など各界のリーダーになられるような方からは、国の代表として責任をもってトップでいることの決意、自分の信じたことを貫く強靭な精神力を感じます。 そして優しさと謙虚さ、常に周囲の人への感謝の心を合わせもっていらっしゃるのも共通点だと思います。人生の目標が明快で、無駄なことにはお金も時間も使わないでしょう」
>以前は、世界中の誰もが知る著名人を前に萎縮してしまうこともあったという。
「でも、怖いと思ったり緊張したりするのは、拒絶されたくない、傷つきたくないという自分のエゴなのだということに気づきました。 それと、不安になる要素というのは勉強不足からくることが多いと思います。事前にできることはたくさんありますから、普段からしっかり勉強して知識を蓄積しておくこと。 地道に、素直に学び続けることが、選ばれ続けるために不可欠なことだと思います」
「5ヵ国語を話す日本人のCAを、私はまだ知りません」と今泉さん。今まで培ってきたものをポジティブに捉え、自分を過小評価し過ぎないようにしているそうだ。
「今ではエゴはすっかり消え、ためらうことなく目の前のお客様と向き合えるようになりました」
自分が輝ける「好き」を何かひとつでも見つけたら、とことん突き進んでみると良いという。
「たとえ小さな目標でも、そこで得た達成感はいつか揺るぎない自信へとつながっていきます。その自信こそが、エゴのない純粋な優しさと信頼の根っこになると私は思います」
次なるキャリアへ!新しい冒険の旅が始まる
2024年3月8日世界女性デーに、愛媛県松山市の「瀬戸内リトリート青凪by温故知新」にて行われた講演会と書籍『世界基準のホスピタリティ』サイン会の様子
「私がこの業界に足を踏み入れたのは2006年始めのこと。早くも18年半が経過し、日本では一番経験の長い現役プライベートジェットCAのようです。 今こうして振り返ってみると、先が見えないことばかりでしたが、安定してなくて全然構わない…。そんな半生を歩んできたのかな、と思います。 そして、もっと新しい世界を見てみたいという気持ちから『グランジュテ・インスティテュート』を起業しました」
次世代のCA育成プロジェクトに関わると共に、AIには決して担えない世界基準のホスピタリティのあり方、 そして国際的なマインドセットを伝えるプログラムを一般の方に向けても提供していきたいと考えているそうだ。
「ありがたいことに最近は企業様やホテルにて講演会の機会が増えています。CAとして培ったホスピタリティに関するお話しをさせていただいたり、 またインターナショナルスクールでは、私の起業体験をお伝えするキャリアトークイベントを英語で行わせていただいたりしました。
ひとつ一つの機会に感謝して、これからもたくさんの登壇をしていきたいと思っています」
明確な目標や生きがいを見つけたとき、ひとはどんなに忙しくてもキラキラして見える。 信念をもって次なるキャリアに向かって羽ばたく今泉さんの眩しいオーラの向こうには、確かな審美眼、仕事への情熱、おおらかな優しさ、感謝の心…。 とても一言ではいい表せないくらい多面的な表情が見える。
イラリ世代が求めるラグジュアリーな生き方の答えも、きっとその煌めきの中にあるはず。
今泉さんの“知×愉”の冒険の旅は、今まさに始まったばかりだ。
〜前編を終えて〜
現役プライベートジェットのCAとして活躍しながら、その経験を、書籍『世界基準のホスピタリティ』(ことのは出版)にまとめ、2022年にはホスピタリティ・コンサルタントとして起業した今泉麻衣子さん。 しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。思いもよらぬピンチが訪れたことも。離婚、シングルマザーとしての子育て、そして突然の乳がん告知...。
後編では、人生の逆境や困難をしなやかに乗り越える力=レジリエンスの高め方、そして今泉さんのプライベートライフについて伺います。
今泉麻衣子さん(MAIKO IMAIZUMI)
/プライベートジェット
CA/ホスピタリティ・コンサルタント
プロフィール:
日本におけるプライベートジェット業界の第一人者。現役でフライト乗務するCAでは最も長いキャリアを持ち、世界83ヵ国500都市以上を訪れる。世界のVVIP (皇族・王族、実業家、政治リーダー、ハリウッド俳優など)のフライトを担当し、高評価を得ている。日本語と英語の他にフランス語、スペイン語、北京語を使い機内サービスができる。
若手CAの雇用・訓練・育成プロジェクトを引率する経験を元に、人財育成の大切さを実感して、 2023年に株式会社グランジュテ・インスティテュート(https://www.grandjete.institute)を法人登記。現在もプライベートジェットでのフライト乗務をしながら、企業研修や講演活動を行っている。
著書『世界基準のホスピタリティ』はAmazonにて好評発売中。
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