JOURNAL
自分が自分らしくあるために、
幸せを実感しながらより輝いて生きるひと。
ブレない軸を持ち、本質的な豊かさを見出だすひと。
そんなイラリなひとに、豊かな暮らしの本質を学びます。
時代の先をゆく賢者たちのライフスタイルから、
強く、しなやかに生きるヒントを見つけてください。
幸福度世界一!フィンランドに学ぶ「小さな幸せ」に満ちた豊かな暮らし方 Vol.3 ラウラ・コピロウさん
オーロラ、白夜、森、湖…。ロマンティックで清らかなイメージが広がるフィンランドは、毎年発表される『世界幸福度報告書』(国連)で、7年連続「世界幸福度ランキング」1位に輝く憧れの国。その結果には、男女平等、寛容さ、貧困・汚職や犯罪が少ないこと、人生の選択の自由などが色濃く反映されているのだとか。
幸福度世界一の国で生まれ育ったラウラ・コピロウさんは、日本に暮らして早13年。最近では、日本中のパフェを食べ歩き、その魅力をSNSで発信。“パフェタリアン”としての活動が注目されている。
生粋のフィンランド人であり、日本をこよなく愛するラウラさんに、フィンランド人を幸せに導いている理由について伺った。
ラウラさんのご実家のあるフィンランドのEspoo(エスポー)に位置する「ヌークシオ国立公園」。映画『かもめ食堂』のロケ地にもなった。
CONTENTS
「フィンランドが世界一幸福」なのはなぜ?
一生に一度は行きたい人気の旅行先・フィンランド。日本とほぼ同じくらいの国土面積でありながら、人口は約555万人(IMF統計2022年)で日本のわずか4.6%ほど。国の70%以上が森林、10%が湖や川といった水域で、世界でもっとも水が多い国のひとつでもある。その純度も高く、首都・ヘルシンキの水道水は世界トップクラスなのだそう。
“ひとが資源”という価値観がフィンランドのQOLを高めている
「森林や湖に囲まれ、美しい水がふんだんにあるフィンランドですが、実はそれ以外にあまりこれといった資源のない小さな国です。その一方で、 “ひとが資源”という考え方が国策の根幹にあるのです」
厳しい自然環境と資源こそ周辺の他の国に比べてあまりない北欧の小国である一方、少ないリソースを大切にしてきた国だという。福祉先進国としても知られ、子育てや医療の手厚い補助に加え、高齢者ケア政策なども日本よりはるかに充実している。
「教育の機会も平等で大学まで無償です。うちは決して裕福とはいえない経済環境でしたが、私はヘルシンキ大学※に入学し、妹も別の大学の医学部を卒業しました。格差なく誰にでも公平にチャンスが与えられるのは、ひとに投資することが国の繁栄につながると考えているから。そこが素晴らしいと思いますね」
誰もが平等に、人間らしく幸福に暮らせるよう、「QOL(Quality of
Life)」を保証する社会福祉基盤が整っているフィンランド。生涯学習が推奨されているため、何歳になっても学びたいと思えば誰もが学ぶことができるのだ。
ひとは「守られている」と感じてはじめて外の世界へと向かっていけるもの。「公平」、「平等」という思想こそ、フィンランドの最大の強みなのかもしれない。
※多くの国際大学ランキングで常に50〜100位内にランキングしている名門大学。
“小さな幸せ”のためのデザインが毎日を「特別な日」にする
フィンランドのほとんどの家庭に必ずひとつはあるといわれている『ムーミンマグ』。何世代にもわたって使われ、愛され続けているテーブルウエア
ひとを大切にするという思想は、フィンランドのデザインにも表現されているようだ。
「フィンランドのデザインって、“芸術作品”という感じではないんですね。日本でも展開しているマリメッコやイッタラにしても、毎日の暮らしの中に“小さな幸せ”をもたらすという哲学が根底にあるのです」
フィンランドの豊かな自然からインスピレーションを得て形づくられているフィンランド・デザイン。明るい太陽や鮮やかな植物などが取り入れられたテキスタイル、ガラスや陶器なども、実用的でどこかあたたかみが感じられ、使い勝手の良さと無駄のないミニマルな美しさが、私たちの生活に彩りを添えてくれる。
イッタラ、アラビアなど、フィンランドを代表するブランドを展開する『フィスカース(Fiskars)』グループが世界中のスタッフと共有するスローガンが“Making the everyday
extraordinary(毎日を特別な日にする)”。
「特別な日のためのデザインではなくて、毎日を特別な日(・・・・)にしてくれるデザインーー。これこそまさにフィンランドのライフスタイルそのものです」とラウラさんはいう。
シンプルに心穏やかに、あたり前の日常に喜びを見出す“幸福力”
森を散策しながら新鮮な果実を摘んだり、キノコ狩りを楽しんだり。ビルベリーやリンゴンベリーなどのベリー類は白夜に実を熟し、芳醇な香りを放つ
積んだベリーで作ったビルベリータルトは、フィンランドの自宅で過ごすときの定番スイーツ
日本在住13年のラウラさん。帰国するたびにいつも思うのは、そもそもフィンランド人は幸せを感じる基準がとてもシンプルだということ。太陽の恵みに感謝し、新鮮な空気を胸いっぱいに吸いながら、森を散策したりベリーやキノコを採取したり…。日常のささやかな喜びに心を向け、身のまわりの小さな幸せを実感する。
「光輝く初夏の朝に、人々が交わし合う第一声は“おはようございます”ではありません。 “天気が良いね!(Onpa ihana
sää!)”というんです。冬が長く、日照時間が短い日が多いフィンランドでは、日照時間が長く、天気が良いというだけでみんなすごく幸せを感じます。幸福度ランキングは複雑な計算で構成されますが、このようなシンプルさこそが、フィンランドの人が幸せを感じている理由の一つだと思っています」
“今、この瞬間を楽しもう”、“今を大切に生きよう”。そんな心がけがあれば、毎日の幸福感が今よりもっと高まるに違いない。
「新しいものにワクワクする旺盛な好奇心」
そこにフィンランドにはない日本の魅力がある
「フィンランド人と日本人は共通点が多い」とラウラさんはいう。
「時間や約束を守って仕事も真面目にこなすひとが多いことや、謙虚でシャイな国民性も似ています。また、日本にはフィンランドのサウナ文化と同じお風呂文化があります。ともに保養や社交の場としての長い歴史があって、職業や地位などに捉われず、裸の付き合いを通して打ち解け合うという点も同じです。日本でサウナがすっかり定着しているのも、同じ温浴概念がベースにあるからだと思いますね」
一方で、「フィンランドにはない日本の魅力」についても語ってくれた。
「日本は、新しいトレンドが生まれるのが早くて市場にスピード感があります。好奇心旺盛なひとが多く、新しいものにとても寛容です。“新しい情報やイベントにワクワクする日本”というのが、私はすごく良いなと思う点で、みんな目がキラキラ輝いている。フィンランドにはない日本の魅力がそこにあります。
フィンランドは、社会福祉などのインフラが整備されていて生活は安定しています。そういう点では暮らしやすさを感じますが、小さな頃から好奇心旺盛で“新しいもの好き”だった私には、日本での生活が性に合っています。両親もそれを理解していて、“フィンランドに帰って来て”とはいいません」
ホームステイ時代のラウラさん。留学先の高校では茶道部に所属
2006年、フィンランドから函館にホームステイしながら高校生活を送ったラウラさん。ヘルシンキ大学在学中に早稲田大学に留学し、ヘルシンキ大学を卒業後には国費留学生がとして北海道大学大学院法学研究科に入学・修了という輝かしい学歴の持ち主。フィンランド語を母語とし、英語、日本語、スウェーデン語、フランス語もできる。
そんな日本贔屓のラウラさんも、最初は苦労の連続だったとか。
「日本語が話せても、日本の文化を理解するには時間がかかった」と過去を振り返る。
ひととは違う自分らしさ”、相手の“自分らしさ”を認める寛容性が幸福力の源
「日本は集団主義で、欧米は個人主義とよくいわれますが、日本は何かあると個人ではなく会社やチーム全体で責任を負う
“連帯責任”というルールがある国。ですから常に他人に迷惑をかけないように、家族や学校などどこを代表しているかを気をつけていないといけません。目立ったことをすると特別視されてしまいます。最初はなかなか慣れず、周囲から誤解されたこともありました」
日本では、多くは子供の頃から「他人に迷惑をかけてはいけない」と教育される。空気を読み、みんなと一緒であることに安心する傾向があるのは、その結果なのかもしれない。
「フィンランドの子どもたちは、ひととの違いにこそ大きな価値があると教えられて育ちます。幼稚園や小学校の頃から、自分自身を知り、自分と違う考えの友達がいることを学ぶのです。実は、“ひととは違う自分らしさ”に光を当て、相手の“自分らしさ”をも認める寛容性を育むことが、幸福力を高めるためにとても大切なことだと私は考えています」
それはフィンランドの働き方にも現れているという。
「同じ職場にも、育児や介護をしながら働いているひとや昇格のためにキャリアを身に付けたいと思っているひとなど、いろいろな状況のひとがいますよね。フィンランドでは、それぞれ自分に合ったやり方で仕事をこなします。仕事が片付いたら周囲の目を気にせずに帰宅しますし、休暇を取るのも当たり前。
メールの自動返信に“申し訳ございませんがお休みを頂戴しております”とお詫びの言葉を入れるという発想もありません」
こういった文化の違いは、「語学のように教科書を読めばわかるものではなく、経験しながら習得するしかない」とラウラさん。
「精神的に落ち込んだこともあったけれど、でも、それが逆に良かったと今は思います。日本人や日本のことを深く理解したいと思うきっかけになり、結果的に日本がより好きになりました」
「パフェタリアン」として日本発祥のパフェをSNSで発信!
旬のフルーツ、いちごと濃厚ショコラを堪能。Pâtisserie & Café DEL'IMMO(パティスリーアンドカフェ デリーモ)にて
ラウラさんはここ数年、日本のパフェ文化の魅力をSNSなどを通じて発信している。もともと大のアイスクリーム好きで、日本の某有名フルーツパーラーで食べたパフェの美味しさに衝撃を受け、以来、パフェの虜になったそうだ。
「グラスの中でジュレ、フルーツ、アイス、クッキーやチョコレートなど、さまざまな食材が美しく重なり合って完成するパフェ。“アイスがデザインできるんだ!”という発見が、パフェにハマったきっかけです」
パフェが日本発祥であることに着目し、年間500ものパフェを食べ歩く。前人未踏の47都道府県全制覇を狙って、現在、仕事の後や休日を利用して「パフェ遠征中」とのこと。
自身のインスタグラムには、今まで食したさまざまなパフェの画像が投稿されていて、
“いいね!”の数もそれぞれに数百件をマーク。フォロワー数も1万5,000人を越えた。
今では有名ホテルや専門店などで、新作パフェのアドバイスやオリジナルパフェの考案を手がけるほど、スイーツ界のインフルエンサーとして活動の幅を広げている。
ラウラさんオススメのパフェ
「L’atelier à ma façon」のグラスデザート。ブーケのような旬の苺を使ったパフェに途中で発酵させた益子産苺ミルキーベリーのアイスをかけてくれて、驚きと感動で言葉を失った。陶芸家・伊藤剛俊さんとのコラボイベントでいただいたパフェですが、陶芸もパフェも芸術ですし、器があって初めてパフェと言える(例えばケーキと違う)パフェらしさがありますので、素晴らしいコラボ、そして忘れられない作品です。
たまにだけオープンする焼菓子をメインに作る菓子屋 北砂「KUNON Baking
Factory」でいただいた『柑橘とスパイスのパフェ』。地元静岡のオリジナル品種の柑橘を贅沢に楽しめるパフェは最近新しく見つけてとても感動したお店です。
ラウラさん考案のパフェ
ベリー大国・フィンランドのリンゴンベリーを使用。伝統的なベリータルトのイメージでトップにタルト、アイスの中にオーツ、国民的ブランド「エロヴェナ」のオーツクッキー、オーツミルク、パフェグラスにはフィンランドの「イッタラ」を使った、まさに東京にいながら五感で楽しむフィンランド。パフェと一緒にもらえるパフェカードに付いているQRコードを読み取るとフィンランドの森の動画を観ながら食べられる!
パフェがもたらす “小さな非日常体験”が、
「また明日も頑張ろう」という気持ちにしてくれる
「実は、パフェには日本の桜のような儚さがあるんですよ。時間の経過とともにアイスクリームがふわっと溶け、食べ始めれば一瞬で終わり、その散り際もまた美しい・・・」
地域ごとの特色をパフェに活かせば、観光資源としても素晴らしいと考えているそうだ。
「パフェがもたらす
“小さな非日常体験”が、また明日も頑張ろう、という気持ちにしてくれます」47都道府県の制覇を目標に、残る3県、鳥取・島根・沖縄を目指す。
「楽しい」と思えることに目を向けて“自分らしく”生きるコツ
「日本の桜のように儚くも美しいパフェ」を愛し、日本中のパフェを味わうラウラさん
大胆で個性的なマリメッコのワンピースを着こなす凛とした佇まい…。そんなラウラさんが、自分らしくあるために大切にしていることとは?
「自分が楽しいと思えることを、毎日の習慣にするように心がけています。“これをやると楽しい、気持ちが良い”ということは、誰にでもあるもの。それを生活の軸に置くと、周りに振り回されることが少なくなると思います」
日本で暮らし始めてからすっかりルーティーンになっているのが毎朝のランニング。
「ランニングは、体を動かす気持ち良さもありますが、走っている間に思わぬ発見があったり、いろいろなアイデアが生まれたりするのがすごく楽しい。モヤモヤしていることがあっても、走ると頭がスッキリして精神的にとても安定します。
楽しくて気持ち良いと感じることを続けて、たまに何もしない時間を作ると創造性が高まって自分自身の成長につながるように思いますね。結果的に他人と比べたり、不公平だと思ったりすることもなくなるでしょう」
一方、毎日楽しい!と感じて過ごすためには、心がけも必要とラウラさん。
「無理に頑張らないこと、頑張る時には自分のために頑張ることです。でも頑張り過ぎると精神的にも体力的にも辛くなります。欲張らず、疲れたら休みましょう。何事も“ほどほど”が一番。余白や余裕があって、ありのままの自分を愛せるようになりますし、自分と異なる他人にも寛容に生きられます。
効率良く何事もほどほどに。そんな穏やかな心持ちが、自分らしく幸せに生きるために大事なのかなと思います」
"WHAT WILL YOU LIVE WITH IN YOUR HANDS?"
ラウラさんのJUSTナチュラル
ランニングシューズ
アディダスかニューバランスのスニーカーが多いですが、毎朝カラフルなスニーカーの紐を結び走り出すと、本当に気持ちよくて、今日もいい日になりそう!と思います。国内外の旅先や出張先でも旅ランのように毎日違うルートをランニングして、現地の人になった気持ちで走るのが大好きです。
自分らしいワンピース
ファッションは好きだけど、それに時間をかけるより他のことがしたいので、毎日フィンランド・デザインのカラフルなパターンのワンピースを着ています。とてもハッピーな気持ちになりますし、話のネタにもなりますので、幸せな気持ちが他の人にも広がっているように感じます。
カメラ ソニーのデジカメ
パフェ撮影にも欠かせない愛用のカメラ(SONYα6000)。海外旅行に行くときにも必ず持っていきます。その時々で目にした景色、そこで出会った人たちの写真は大切な思い出を写真に収めて、自分のお土産にしています。モノに溢れている世の中なので、小さい時からモノより写真のほうが自分らしく感じます。
〜インタビューを終えて〜
フィンランドには、「シス(SISU)」という独特の表現があるという。
「自分にとって、より良い明日のために頑張る力」や、「誰かに押し付けられるのではなく、自らの意思で行動する “強い心”」を意味するのだとか。
異文化の中で自分らしくいられる「居場所」を見つけ、毎日を自分軸で楽しむラウラさん。知られざる日本中のパフェを見つけてはリアリティあふれる美しい文章で紹介し、読む人をハッピーな気持ちに導いてくれる。
本場のサウナのことやフィンランド・デザインのことなど、まだまだ教えてほしいことがたくさんある。
シスに満ちたしなやかさと寛容性で、これからもフィンランドと日本をつなぐ架け橋になってほしい。
取材・文 山田ふみ
ラウラ・コピロウさん(Laura Kopilow)
フィンランドの専門家・パフェタリアン
フィンランド・エスポー市生まれ。
日本人専用旅行代理店などに勤務後、日本の大手IT企業での就職を経て、2018年よりフィンランドの政府系機関でライフスタイル・サウナ・食品などを担当。
フィンランドの専門家や無類のパフェ好きとしてテレビやラジオ番組への出演も多数。
フィンランドを発信するインスタグラム
//https://www.instagram.com/laura_from_finland
パフェを発信するインスタグラム
//www.instagram.com/laura_finrando/