JOURNAL
自分が自分らしくあるために、
幸せを実感しながらより輝いて生きるひと。
ブレない軸を持ち、本質的な豊かさを見出だすひと。
そんなイラリなひとに、豊かな暮らしの本質を学びます。
時代の先をゆく賢者たちのライフスタイルから、
強く、しなやかに生きるヒントを見つけてください。
本物は、美味しいだけじゃない!その先にある「豊かな暮らし」を未来につなげる 前編
Vol.5 岩城紀子さん スマイルサークル代表
美食のセレクトショップ『グランドフードホール』(通称グラホ)を運営するスマイルサークル代表の岩城紀子さん。「本物の食品であること」を大前提に日本中のあらゆる食品を食べ比べ、自らの舌で厳選した“トップオブトップ”だけを店頭に並べる。
そこに置かれているのは、昔ながらの製法で丁寧につくられた味噌、醤油、みりんなどの調味料をはじめ、他では目にしたこともないマヨネーズや完全無添加のウスターソース、季節限定のドレッシングやザラメ入りヨーグルトなど総勢450品のオールスター食材。
一般のスーパーなどの食品売り場とは一線を画す「本物の食品×美味しい」ラインナップは、イラリが欲して止まない“ホリスティック・ヘルス”な5ツ星アイテムばかりだ。
店内には一流シェフがつくるデリメニューのコーナーやカフェ・レストランも併設されている。
今月は、ビジネスの枠を超え、愛情あふれるグルメ食材を世に広め続ける、今注目の『食の絶品女神』岩城さんをインタビュー!
食を通して歩んできた道のりとともに、美味しく食べて豊かに生きるヒントを伺います。
「これ、ホントに美味しいんですよ」。取材時には商品一つひとつを手に取って、丁寧に説明してくれた岩城さん(グランドフードホール六本木店にて)
一人ひとりが本当に体に良いと思うものを選び、美味しいと思うものを食べる。その意識が日本の食の未来を変える
2020年5月。人気トーク番組『カンブリア宮殿』(テレ東系)」に出演した岩城紀子さん。「本来あるべき食」への追求心、食品業界にアクションを起こし続ける仕事への愛と情熱、「自分の舌で選び抜いた日本一美味しいものしか売らない」グラホのコンセプト。その全てが視聴者に驚きと感動を与え、大反響を巻き起こした。
「基本的にメディアへの出演はお断りすることが多いんですよ。とくにTV番組はスポンサーありきですし、言ったらだめなことばっかりなんじゃないかと思って。そうしたらカンブリアのスタッフさんが“うちは違うんですよ、本音を語ってください”とおっしゃってくださり、出させていただくことにしたのです」
岩城さんは番組内で日本の食に関して日頃から感じている不安を素直に話した。営業に行った先で聞かされた食品業界の“知られざる闇”について語ったパートも、カットされることなく放映された。
オンエアの後、視聴者から1,000通を超えるメールが岩城さんの元に送られてきたそうだ。子供に何を食べさせていいかわからないと嘆く母親、添加物による加工食品の安全性を危惧する声だった。
「確かに日本の食品業界は複雑な問題をたくさん抱えています。添加物を完全に避けて暮らすことは難しいものですが、大切なのは食べることをやめるのではなく、意識すること。意識して、一人ひとりが本当に体に良いと思うものを選び、美味しいと思うものを食べることに尽きます。それが日本の食の未来を変えることにつながるんですよ」
食への探究心の原点にはいつも「おばあちゃんが教えてくれた美味しいもの」を誰かにつなげたいという思いがあった
岩城さんの食への探究心の原点には「おばあちゃんが教えてくれた美味しいものを誰かにつなげたい」という思いが常にある。
「子供の頃、両親が共働きだったこともあり、料理は祖母がつくってくれることが多かったのです。祖父も父も、よくお客さんを家に連れてくるような家庭で、学校から帰ってくると、私は祖母の手伝いをしたりお運びさんをしたりしていました。
祖母がもっともこだわっていたのが調味料でした。塩、砂糖、みりんや味噌などを全国各地のメーカーから取り寄せては“これはいい、こりゃアカン”と言いながら食べ比べていました。
“紀子、ちょっと味見してごらん。この味噌は何に合うかねぇ”
“うーん、ちょっと甘めやから魚がいいんちゃう?”
今思えば、毎日そんな会話をしながら、祖母は私に食の英才教育をしてくれていたのです。
“いいものを食べると舌がきれいになるからね”
そう言って、いつも心を尽くした美味しいものを私たちに食べさせてくれました」
おばあちゃんがくれた「美味しい幸せの記憶」を誰かに伝え、広げていきたい。その思いが、食にこだわる岩城さんのブレない軸になっている。
アパレル業界で活躍していたGAP時代の岩城さん
英会話スクール、外資系アパレルメーカーを経て、機能性食品を開発するベンチャー企業に転職した岩城さん。食べものに関わる仕事がしたいと真剣に考え始めた32歳の時のことだ。
だが、そこで日本の食品業界の裏事情を知ることになる。
熾烈な価格競争に勝ち抜くために、メーカーも小売店もさまざまな工夫を凝らす。たとえば、より安く、手軽に、濃厚で強い味に仕上げるために使用される多くの添加物(保存料、甘味料、着色料、香料など)。加工食品には、ラベルや表示では知ることのできない隠れた添加物が大量に使われることも少なくない。
「営業に行くたび“自社製品は家族には絶対食べさせたくない”という食品メーカーさんにもたくさん会いました。その言葉に衝撃を受けましたね」
日本の食品業界を取り巻く闇を知れば知るほど、誰もが安心して食べられる“本物”を届ける仕事がしたい、という思いが強く湧き上がってきたという。
日本には、安心・安全な食材がまだまだたくさんあることを知っていたからだ。
たった3人で食品バイヤー代行業をスタート
バイヤーとして日本中を巡っていた頃、もずく生産者を訪ねて
そんな矢先、あるパーティーで百貨店の会長さんから意外な話を耳にした。
「日本の食品業界はもうあかんようになる。3年おきに社員を人事異動させないといかん時代に、信頼のおけるバイヤーはなかなか生まれない。これからは百貨店の食品バイヤーを代行する業務が必要になる時代や」
もともと漠然と、いつかは起業したいという思いがあった岩城さん。
「“食品バイヤー代行業”という会長さんの言葉を聞いてピンときたんですよ。本当に美味しいものを日本各地から見つけ出す仕事こそ、私がやってみたいこと。おばあちゃんが育ててくれた舌を生かすチャンスや!そう思って、直感で起業を決意しました」
2008年、アパレル時代の仲間3人と共に立ち上げた『スマイルサークル』は、こうして食品バイヤー代行業としてスタートを切ったのだ。
これがグラホをはじめるきっかけになるとは、その頃はまだ想像もしていなかった。
そのジャンルのトップオブトップ“本物だけを置く”グラホの構想が浮かんできた
「食品バイヤーの仕事がはじまると、百貨店やスーパーの社員に代わって日本中を回りました。いくつもの商品の中から一番美味しいと思ったものを、売り場の担当者さんに紹介していくわけです。でも、私たちがどんなに良いものを選んでも、簡単には売り場に置いてもらえないことがだんだんわかってくるんですよ」
バーコードがないとダメ、商品管理の条件に合わない、一定の生産量が見込めないなどの理由で、岩城さんたちが自信をもって選んだ「一番手」たちは、流通のルールが厳しい百貨店や大手スーパーではなかなか採用されないのだ。
「結果的に1番手は諦め、2番手、3番手くらいを売り込むことになってしまいました。そんなあるときメンバーの一人が、 “この1番手(の子)ばっかりが売っている店があったら夢のようやのに”と言ったんです。“それ面白いやないか”ってなって。その一言をきっかけに、グラホの構想が浮かび上がってきました」
兵庫県芦屋市東山町に位置する『グランドフードホール芦屋本店』。「かけがえのない人生を支える台所」的存在
店内には豊富な種類の惣菜が揃う。一流シェフがつくるデリ・メニューは主婦やビジネスマンなどにも大人気。自宅から容器や鍋持参で買い求めるエコ意識の高いひとが多いのだとか
2014年、兵庫県芦屋市に『グランドフードホール芦屋本店』、その後東京六本木ヒルズ内に六本木店がオープン。
デリコーナーには吟味した材料でつくられた惣菜が並び、併設のレストランでは一流シェフが腕をふるう。店名や店の雰囲気は、10年ほど前に訪ねたイタリアの「フードホール」から着想を得たという。
次に進む道を直感で見極め、「今自分がやるべきこと」に全エネルギーを注いできた岩城さん。起業から8年、ワクワクするような独自のセレクトとクオリティが自慢の日本初のフードホールが誕生した。
「最後のひと口」まで食べたいか、なくなったら「また買ってこなあかん」と思えるか。あらゆる商品を自宅のキッチンで徹底的に使い切る
キムチの試食会。バイヤーたちが全国から集めてきたものをラベルが見えない「ブラインド」の状態で試食。実際に食し、自らの舌で選び抜いた美味しいものしか売らない。安心安全を大前提に、グラホの商品をセレクトする
グラホに置く商品は、岩城さんを中心にバイヤーたちによる「試食会」を通過したもののみ。全てをブラインド(製造元や商品名を隠した状態)で食べ比べ、味と品質を吟味する。単体で食べるだけでなく「ポテトサラダにしたら?焼きそばにかけたらどうなる?」という具合に調理にも使ってさらに厳選する。
岩城さんは自宅でもあらゆる調味料を徹底的に使い切るそうだ。最後の一口まで食べたいかどうか、なくなったら「また買ってこなあかん」と思えるかどうか、自身の舌でとことん試す。
「食の仕事って、プライベートとの境目がないんですよ」と笑う。
境目のない究極のワークライフバランスが、私たちに「本物の食×美味しい」を届けてくれる。
ずらりと並ぶ愛用の調味料たちは、無くなったら生きていけないくらいの愛用度合い。超湯(チャオタン)は鶏ガラや豚骨などを長時間煮込んで抽出したあらゆる料理のベースになる調味料でマスト中のマスト。本山大蒜は、にんにくの香りや旨味を極限にまで引き出しておりもつ鍋や炒め物にどっさり使ってもう絶品 !ジョンドクジンごま油は世界中の生産量のわずか1~2%しかとれない韓国産最高級金ごまを使用して低温圧搾一番搾り、今まで経験したことのない香りの波が鼻腔を突き抜けます !調味料は試食サンプル含めて山のように使っていますが、絶対に浮気せず使っているものがほとんどで『にんにくオリーブオイル』、『寿酢』、『超湯』、『本山大蒜』、『もち大豆みそ』などは切らすことができません。多いものは週1個ずつ使い切るくらいの驚きの消費量です!
岩城さんが考える“本物”とは何か
「原材料にこだわり、添加物を使用せず、昔ながらの製法で手間暇かけてつくられたもの。それが私なりの本物の定義です」
グラホの商品をセレクトする際には、原則生産者に会いに行くことにしている。
「試食会で“絶対にこれ!”と思う商品をつくられているメーカーさんを訪ねると、だいたいは家族経営の小さな工場でほそぼそと生産されていることが多いんです。一つひとつに愛情を注ぎ、妥協せずに本物のクオリティを守り続けることができるのは、小規模経営の強みかもしれません」
一定温度・湿度まで管理された“卵専用の部屋”をもつ長崎カステラの専門店、12頭のジャージー牛を育て、その牛乳で秀逸バニラアイスをつくっている兵庫県の工房、薪で大豆を炊き、「手麹(てこうじ)」という昔ながらの手法を守り続けている和歌山の醤油の蔵元など、全国津々浦々まで足を運ぶ。
「美味しいものには生産者の想いが詰まっています。語り尽くせないほどの物語が必ずあるんですよ。美味しさと一緒に、その物語を日本中に広めたい」
赤字続きだったメーカーの商品に光を当て、グラホの大ヒットアイテムに導いたことも。“女神”との異名がそこから生まれた。
つくり手たちの製品への愛が、女神にパワーをチャージする。今日も明日も明後日も。
「気が付けば3年間1日も休んでいません」
岩城さんの笑顔の理由が腑に落ちた。
一度食べてあまりに感動した「梅の黒煮」をつくられている高知の果樹園を訪ねたときのこと。80歳になるお母様が無農薬で作られている梅を原料に、伝承のレシピを一切変えずにつくられた梅の黒煮は、血液改善の成分「ムメフラール」が豊富に含まれている。一口食べると甘ずっぱくて美味しく、食べてすぐパワー全開!
後編へ続く>>
岩城紀子さん(NORIKO IWAKI)
/スマイルサークル代表取締役社長
プロフィール:
1972年、兵庫県生まれ。GAPジャパン、機能性食品開発のバイオベンチャーを経て、2008年にスマイルサークルを設立。百貨店、大手スーパー、通販会社など食品関係のコンサルタント業やバイヤー代行を務める。2014年グランドフードホールを設立。兵庫県・芦屋市と東京・六本木に店舗を展開。全国各地の2600社のメーカーと取引している.。著書『裏を見て「おいしい」を買う習慣』『からだ思いのグルメ調味料 選び方・使い方』(共に主婦の友社)が好評発売中。
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