Vol.6 ワインの産地と味わいの関係
本来ワインの原料は葡萄だけで水も必要なく、葡萄の出来がワインの風味に直接的に影響するとお伝えしてきました。だからこそワインは、どんな葡萄から造られているのか、その葡萄がどんな環境で育てられてきたのかがとても重要です。中でもその産地の気候、主に気温や日照時間が大きな影響を与えます。
例えば、ワインの産地を温暖なエリアと冷涼なエリアと2つに分けて考えます。
前者では、糖度が高く酸度が控えめな葡萄が出来る傾向があるので、アルコール度数が高く穏やかな酸味のワインに仕上がる場合が多いようです。
後者では、熟してもあまり糖度が上がらず酸度が比較的高い葡萄が出来る傾向があるので、アルコール度数が低く酸味が特徴のワインに仕上がります。
(※葡萄の糖度は出来上がるワイン中のアルコール量に比例し、葡萄の酸度はワインの味わいに直接的にも影響します。)
テロワール
ワインの風味を左右する自然環境の影響は、その産地の気候だけにとどまらず、標高や地形、土壌の地質、葡萄畑を取り巻く動植物や微生物などにも及びます。
これらの自然環境を、主にワインの世界においてテロワール(Terroir)と呼んでいます。
ワインの風味に影響すると言われるテロワールの要素をいくつかご紹介します。
●気候
前述したとおり温暖なエリアと冷涼なエリアの違いが、主に味わいのボリューム感や酸味などに影響します。
●土壌
葡萄の樹が植わる畑の土壌やその下層にある岩盤を形成する鉱物の質とその粒度(粒の大きさ) がワインに影響します。
鉱物の質
例えば、石灰岩質の土壌はしっかりとしたストラクチャーと長い余韻を。花崗岩質の土壌はシャープで独特な酸味とミネラル感を感じさせます。
粒度
粘土のように粒子が細かい土壌は、リッチでどっしりとした印象を。日照による蓄熱効果が期待できる砂利や小石などの土壌は、高いアルコール度数をもたらします。
●植物
ガリッグ
南フランスなど温暖な地中海沿岸エリアの葡萄畑の周りには、タイムやローズマリー、フェンネルなどのハーブが自生しており、その群生をガリッグと呼んでいます。
実った葡萄の果皮にそのハーブ類の爽やかな香りがうつり、ワインの風味の一部になることがあります。
これもまたテロワールなのです。
但し、これらのテロワールは、自然なアプローチで造られた自然度の高いワインでなければ表現できないと私は信じています。
補糖や補酸など添加物を使用したワインは、特に気候の特徴が見えにくい気がします。また、化学農薬を多用した葡萄畑では、それを取り巻く動植物や微生物などはいなくなり、葡萄の樹の根は化学肥料を求め表土に滞留するようです。土壌やその下層にある岩盤に由来するミネラルやス トラクチャーが表現されず、味わいも表面的でテロワールが感じられないつまらないワインにな ってしまうのです。
●人もテロワール?
テロワールは、ワインの風味を左右する重要な要因だと考えれば、人(造り手)こそが最も大切な要素かもしれません。どんなワインを造りたいのか、添加物や化学農薬を使うのかは、ワインの 造り手が決めることだからです。
地球温暖化
昨今の気候変動や地球温暖化はワイン業界でも大きな問題になっています。
「世界のワイン産地の最大 70%が葡萄栽培に適さなくなる可能性がある」という研究論文が発表されました。
それに対抗する色々な取り組みが世界中で行われています。
イラリが提携するスペイン ペネデスのアルベ・イ・ノヤ農園は「VRIAACC(耐性型在来品種)」の研究・育成プロジ ェクトを立ち上げ、抵抗力の高いブドウ品種の研究と改良に積極的に取り組んできました。
干ばつに強い品種や、温暖化で進む病害に負けない品種の開発は、化学農薬を大幅に削減できる上、持続可能なワイン造りに大きく貢献することになります。
詳しくは ILLARIIY 公式ウェブサイト農園物語 6.イノベーションをご覧ください。
これから
葡萄畑を取り巻く自然環境の変化(特に温暖化)が予想されます。その産地に根付いてきた従来の葡萄品種が、その気候に合わなくなってきています。
さらに温暖化が進めば、その気候に合う品種や新しく開発された品種に植え替える必要が出てくるかも知れません。
また、今まで葡萄栽培に向かなかった寒冷地が温暖化により新しいワインの銘醸地となる日が来るかも知れません。
私の実感値として、ワインの産地と味わいの関係が今までのイメージと違ってきているなぁ〜と感じる今日この頃。
昔と変わらない美味しいワインを守るためにも、日々の生活の中でちょっとした地球温暖化対策を続けていきたいと思います。
次回は、「酸化防止剤を理解する」をテーマに解説します。お楽しみに!

丸山謙二さん(KENJI MARUYAMA)
有限会社みどりや酒店代表取締役
プロフィール:
大学卒業後、建設工事の現場監督を経て、家業の有限会社みどりや酒店に入社。三代目社長。
(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
ショップでのワイン販売、飲食店のワインリスト提案、ワインセミナー講師、たまに配達、そのほか、生産地に脚を運び自ら買い付けるワイン人。
自然派ワインを広めるべくワイン関連の様々なイベントを企画、開催。異業種とのコラボレーションなどにも積極的に携わる。美味しいものを食べて、ワインとの相性を試したり、想像したりすることが大好きなおじさんだが、最近体脂肪率が気になり筋トレを続けている。
ロワールワイン ワインアドバイザーコンクール全国第3位。みどりや和飲学園園長。
自然派ワインで世界平和!を願う、やぎ座のAB型。子年。